第15話授業の一コマ

握る刀とその構えは不格好だ。適正魔法の授業はクサナギを扱うことに時間を割いている。元の世界の俺に比べれば恵まれた肉体だが、鍛えていたわけじゃない。筋力が全然足りていない。四十回でも全力で刀を振ろうものなら翌日は筋肉痛確定。とても大会で使えるようなものじゃない。

というか元々この世界でやろうとしていたことはなんだっただろうか、エマの攻略ではなかっただろうか。それがどうしてこれほどキツイ練習をしている。ほんとにギャルゲーなのか、俺がプレイヤーならクソゲーと評していたことだろう。そう思うほど、リアルに近い。

雑念を抱えながら今もこうして刀を振り続けている。適正魔法についてはしばらくは新しく学ぶことはない。ガウル先生は勝つ可能性の高い方法を考えてくれている。

レオスがエマやイレーナと同レベルであるなら勝つのは不可能に近い。そもそもトーナメントで当たることがあるのか。

考えても仕方ないか。


「なあバン、お前勝てると思って大会に出るのか」

「いえ、自分の中の大切なものを守るためです」

「がは、いいなー青臭くて」

「まだ、十五歳ですから」


刀を振ることに集中する。この世界では刀を扱う人はいない。全てが独学になる。俺の知る知識もたいしたものはなく、唯一現実世界で近いであろう剣道の感覚で上から下に振っている。いずれは片手で扱えるようになりたいがまずは形だと思う。これがある程度できるようになればようやく実際に断ち切る。そして魔法を放つ。これを大会までに仕上げる。

それが勝つためにできることだ。


「バン、俺には刀のことはわからんが大会に向けてのアドバイスならできる」

「アドバイスですか」

「大会は二日間でやることは知ってるよな」

「知らないです」

「お前ルール説明読んでないな」

「……はい」


ガウル先生が登録用紙を持ってきて俺に読ませた。

大会は二日間で行われる。

初日はベスト八まで争う。

使える魔法は上級レベルまで。

相手に完治不可能な怪我をさせてはならない。

試合はどちらかが敗北を認めるか、戦闘不能になるまで続ける。

大会が終わるまで勝ち残ったものは魔法での回復および薬剤、ポーションの使用を禁ずる。


「この完治不可能というのはどのレベルですか」

「体の部位を完全に切り離すか殺すか、あとは呪いをかけること」

「呪いなんてあるんですか」

「俺は好きじゃないが呪いはある。ただ、呪いの魔法自体その正体を知られれば効力が弱くなるから秘匿されることが多い。使うのはマニアックな変わったやつだ」

「なるほど。それと大会終わるまでって、二日間まるまるですか」

「ああ、ここが肝だ。大怪我をすればリタイアするしかない。逆に言えば相手が負ってを背負っているほど有利になる。なるべく、怪我を避けろ。幸い魔力量のハンデはクサナギで補える」

「大会はイベント室なんですよね」

「あそこは魔法具の巣窟だからな。仕掛けがわんさかしておる」

「そういえばガウル先生はレイド魔法学校の出身ですか」

「俺はゼンアク魔法学校の出だ。知名度で言えばレイドの一つ下だな。闇魔法と光魔法を学ぶならここよりも専門的かもな」

「でも魔法の属性なんてわからなくないですか」

「俺は入学式のクソ恐喝を聞いてゼンアク魔法学校に行ったんだ。反抗期でな試されてるのがムカついたんだ。がは」


明るいなこの先生は。クソ恐喝ってのは多分最初のあいさつの五分以内なら学校をやめてもいいとか言ってたやつだろうな。この先生の学生時代想像するとだいぶ個性の塊なんだろうな。


「俺が見た大会の感じじゃ、お前に優勝は無理だろう」

「まあそうですよね」

「だがなー若いってのは無敵だ。がむしゃらに笑っていればなんとかなるもんだ」

「ガウル先生もまだ二十歳くらいでしょ」

「ああ二十三じゃ」


がは、と豪快に笑う。気持ち良いくらい明るいのに闇魔法なんだよな。別に性格は関係ないか。ただ、やはりレイド魔法学校の授業は楽しい。

いつかの昔俺は学校生活に悪いフィルターを見て日々を過ごしていたと思う。

今、こうして思い返して見れば嫌なことはあったが、俺のせいもあったんじゃないかと思う。あの時のいじめは俺に要因がなかったと言えるか。多分言えない。暗くて、どこか楽しむ奴らを下に見ていた。空気を読まないことを個性だと思っていた。

友達と良い先生に巡り合った今を想うと中学時代に聞いたソクラテスの言葉を思い出す。

『ねたみは魂の腐敗である』


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