第14話何が悪い

「皆さん今日は来月に控えたグループ対抗トーナメント大会についての説明を行います」


一年生のランキング決めを行うトーナメント大会。元の世界的に言えば年に五回行われる学校の試験のようだ。実際このレイド魔法学校は少なくとも年に五回大会が行われる。


「出場資格につきましては前回のダンジョンにて四層以上突破した生徒に限ります。ただし、強制ではないので出たい人は登録用紙を提出してください。詳しいルールについては登録用紙の裏に書いてあるので読んでください。なので説明というのは誤りですね。私はこのクラスで出場した方がいいと思うのはイレーナさんだけです。資格自体は満たしてる方もいるので止めはしないですが、後悔することになると思います。この大会で大怪我をすれば、一番大切な時期に学びを育むことができなくなります。それは焦燥感や劣等感を生み出すことになります。きちんと考えてくださいね」


セシル先生の言うことはごもっともな気がするがこの世界で大怪我は死ぬとかそのレベルなのではないだろうか。しかしまあ、これもルール次第の話か。魔法治癒禁止だとしたら死ぬかもしれない。この世界はシビアだ。参加はやめておいた方がいいな。


「ルーズは出る?」

「うん、出ることにした。これでダメなら今後やっていけないと思うんだ」

「そっか、頑張れ」

「え、バンは出ないの?」

「実力不足だと思って」

「そうかなー」


***


学校の授業が終わってサークル見学に行くことにした。を警戒しすぎるのはよくないと思う。俺はまだデュランに勝てるわけではないが、あいつも無駄に絡んでくることはないだろう。しかし、俺は失念していた。粘着質なストーカーはデュランだけじゃない。


「やあバン君」

「……レオス王子」

「もちろん、大会でるよね」

「出ないです」

「それは困るな、約束したじゃないか」

「してないです」

「エマは出るよ」

「関係ないです」

「失望されるのは怖いかい」


嫌味ったらしい笑みでレオスは言った。


「そんなんじゃ…ないです」

「君は何をしにこの学校に来たんだ。腰抜けはすぐにいなくなるよ」

「今はまだ時期じゃないだけで」

「言い訳はよしなよ。わかっているんだろとっとと学校辞めて田舎に帰って農業でもつげよ」

「うちの家系は農業じゃねぇよ、腹黒王子」

「あぁそうだったルシウス家は魔法士で有名だったな。でも、その才能も君の兄が全部かっさらわれたんだもな」

「いい加減に……」

「もういいよ」

「は?」


レオスは登録用紙を俺の胸に押し付けて去って行った。わかっている。俺が出たくないのは結果が明らかになるのが怖いからだ。そんなことは知っている。これまでもそうしてきた。ただ上手くいったことはない。

なら……変わるべきなのかも知れない。正しく生きたいと思っても選択の仕方がわからなかった。世の中の大抵の出来事は正当化できてしまうから。

俺は登録用紙に記入した。衝動的だった、ムキになったと言ってもいい。腰に携えた刀の柄を握る。届くだろうか。空はダルそうに陽を傾けて、嬉しそうに影を持ち上げる。結局サークル見学はやめた。もう行く機会はなくなっただろうな。部屋に戻るとルーズは登録用紙を二つ机に置いて座っている。


「バンやっぱり出てほしい」

「もう出したよ」

「え!」

「レオスに絡まれてな。逃げないことにした」


ルーズは少し安心した顔をした。自分だけが出るのは怖かったんだろう。

残りの期間は勝つために練習しよう。

勝ちたい。胸を張りたい。

俺はまだ、一度も誰にも勝てていないから

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