第13話身に合ったもの

この世界の歴史というのは魔法によって発展してきた。日本を知る俺には科学の発展はないように感じる。教科書に載ってる戦いや戦争はどれも魔法の開発競争だ。ある国が上級魔法を使いだせば、別の国は究極魔法を開発して対抗する。それが今となっては生活に応用されていると考えれば、科学の代わりが魔法と言えるだろうが。


デュランによって制服もマントもボロボロになってしまった俺は王都のとある街に来ている。ここでは杖や耐性付きの服や空を飛べるほうきや水が永久に生まれる水筒などの魔道具も売っている。制服とマントはすぐに支給されたが、ガウル先生に杖を買ってみることを勧められた。杖は合うものが見つかれば魔力消費を抑えることもできるそうだ。

そこでガウル先生おすすめの店【鳥の道楽】に来た。

木材建築された建物は長い歴史があるのか木材が新しく綺麗な面と古く味のある面がつぎはぎになってる。魔法を使って綺麗にするのではなく、わざわざ張り替えている。こだわりが強いのだろう。店内は杖でぎっしりと埋め尽くされている。店主は屈強な男で職人らしさが感じられる。


「いらっしゃい。杖を買いに来たのか」

「はい。ガウル先生にここを勧められまして」

「ガウルってことは闇魔法か、それにしても何年ぶりだろうなガウルの生徒が来るなんて」

「そんなに珍しいですか」

「ああウリエルの闇魔法は希少だ。自覚あるだろうがいい意味ではない」

「僕はレイド魔法学校史上一番才能のない男です」

「そうか。こっちへ来い。一番合うものを選んでやる」


店内のさらに奥。事務所に通された。店内も杖ばかりが積まれて圧迫感があったがこっちは杖づくりに失敗したようなものが散らかっている。


「俺は作る専門でな。選ぶことに関しては向いてない。だからこの魔道具の杖を使う。これを握って選出と言え。一番合う杖を引き寄せてくれる」

「選出」


体から魔力が杖に流れていく。妙な脱力感がある。杖は光っては消え、光っては消えを繰り返す。それに反応するかのように周りの杖が震える。しかし、こちらにやってくる様子はない。範囲が拡大していく、体が杖を中継にして一つ一つと繋がる。南京錠の鍵を探し当てるような作業だ。どれもピンとこない。何度も繰り返すうちに何か体に馴染むような感覚がある。そのいままでにない何かに語りかけられる。俺を選択しろと訴えてくる。全身が共鳴している。目を閉じて、何かを手繰り寄せる。

がたがたと壁にぶつかる激しい音が聞こえてくる。


「まじか」


店主の声が聞こえたかと思うと扉の開く音がする。何かは俺の左手に収まる。杖から魔力を吸い取られる感覚が消え、目を開けると杖とは思えない大きさのものを左手が握っている。


「これは」


ああ俺はこれを知っている。両手で握れるほどの柄に練磨された金属の塊。間違いなくこれは刀だ。


「魔法が発達する前に使われたとされる刀という武器だ。俺が作った刀の中で魔法が使えるのはそれだけだった。まさか、そいつが選ばれる時がくるなんてな」

「魔法が使えるんですか」

「刀でありながら杖としての機能をもつ。ただ、普通の魔法士が使うには刀はでかすぎる。時代に淘汰された武器だからな。かけ合わせたところで弱い。でもな、これだけだった。これを作った後も刀を作ったが杖としての機能は生まれなかった。だから破棄できずにいた。ただもし、お前が魔法士としてやっていきたいならそいつはおすすめできない」

「いえ、こちらをいただきます。他のものは僕にはしっくりきませんでしたから」

「そいつはただでくれてやる」

「いいんですか」

「ああ」

「ありがとうございます」


まさかこの魔法の世界で刀を握る機会があるなんて思わなかった。前の世界でも機会はなかったが、憧れはあった。すっかり満足したことだし、ガウル先生に報告をしに行こう。学校に戻りガウル先生の教室に入った。


「いい杖は買えたか」

「これ見てください」


ガウル先生は珍しく難しい顔をした。杖とは名ばかりなその刀を持って刀身から柄の部分まで凝視している。それから切先から反りを指先でなぞって驚いた顔をしている。


「あの魔道具がこれを引き寄せたのか」

「はい、そうです」

「そりゃいい。この刀はユウキが作れた唯一無二のものだからな」


ユウキってのはあのお店の人のことだろう。


「ええ、聞きました」

「嬉しいね、あいつが必死こいてようやっと形になった物だ。何万回と鉄を打って何百本と失敗して、青春時代を捧げた代物だ。大切にしてやってくれ。って言うのもキャラじゃないな、がは」

「そんなに大切なもの俺なんかで大丈夫なんですか」

「何を言う。この刀に選ばれたんだ。自信をもて。それに今どき刀なんて選ぶ魔法士はいない」


がはといつものように笑う。ようやく調子が戻ったらしい。


「その刀に名前でもつけてやれ。そいつはこれからお前の命を任せるパートナーになるからな」

「考えてみます」


刀でありながら杖としての役割をもつ武器。ゲームチックに考えればよくある武器とそう変わりないようにも思う。たいてい魔法のある世界で剣や刀を使うものはその二つを同時に扱う。だが、この世界ではそうではない。魔法に頼りきった世界だ。ならばこの武器は革命となるはずだ。ここは現代知識に頼ろうじゃないか。せっかく俺にしかできないことだ。俺が好きだったとある妖怪アニメに出てくるあのキャラから拝借させていただこう。


「この刀の名前はクサナギに決まりだ」

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