第12話救護の先生と王子
目覚めた場所は救護室のベッドだと思われる。腕も足も傷はふさがってる。あんなに瀕死な状態だったのに体は痛くない。魔法の万能性を感じる。
「目が覚めたね」
白衣に身を包んだ女性が無表情な顔で無感情な声で話しかけてきた。救護の先生だろうな。よく見ると、目の下には隈ができて、肌は真っ白で日焼けを感じさせない。
「はい、ありがとうございます」
「運んだのはエマ・フォカロル、治癒も彼女がかけた魔法よ」
「そうなんですね」
「悲しそうな顔をするね」
無意識だった。でも理由ははっきりとしている。デュランにやられて悔しさを味わった。エマに助けられることを情けないと感じた。俺はもうゲームのキャラをコントロールする人間じゃなくて、そのキャラ本人だってわかった。本当の意味でバン・ルシウスとなった。
「女の子に助けられるのが恥ずかしかった?でも相手はエマ・フォカロルよ」
「幼馴染なんです」
「ふーん、立場が変わったところ?」
「まあそうですね」
この世界でも保健室の先生は相談乗るの上手い論は通ずるものがあるのか。
「何を感じてる」
「劣等感とか情けなさですかね、エマの視線にはいつかの憧れが混じってる気がして」
「いつかね、それが失望に変わりたくないと」
「そうです」
「君にはかっこつけるか、諦めるかの選択肢がある」
「かっこつけるですか」
「しばらくしたら大会がある。そこで結果を残すとか」
「僕に才能はないですよ」
「もちろん知ってる。これは例さ。コンプレックスのなくし方考えてみるといいよ」
もちろん知ってるって……ここに来る経緯を考えればそうだけど。
「……考えてみます。ところで先生の名前は」
「私には名前がないんだ。救護の先生とでも呼んでくれ」
プライバシーなことは聞くべきではないだろうが、この人にはこれからも相談するような気がする。
「どうして名前がないんですか」
「君は人付き合いが下手そうだな。初対面ではふつう聞いてこない」
「気になったので」
「私は両親を知らないんだ。よくわからない施設で育てられ、名前も付けられなかった。ここで教員をやっているのもたまたま才能のない人間を探していた校長に拾ってもらったから」
つまらなそうにそう言った。
「名前がないのは不便じゃないですか」
「そうでもないさ、私は長期的に誰かと関わっていることはないからな」
「ほかの先生とはどうしてるんですか」
「別に話さないな。必要がない」
前世では人と関わらなかった俺だが今は少なくとも人と関わるのは悪くないと思っている。ルーズにしてもエマにしても助けられてばかりだ。
この先生はそもそも人と関わったことがないのだろう。知らないものはなくても困らない。ただ、知らないことはもったいない事だとは思う。知った上で関わらないのとは違う。
「また、相談に来ます」
「そうか」
今は何を言っても友達がいる感覚はうまく伝わらないだろうからな。とりあえず部屋に戻ろう。あの後のことを少し知りたい。
救護室の扉を開けるとイベント室の前だ。こっから救護室を出入りするのか。
「バン・ルシウス君」
木に半身を預けて、片手で本を読んでいるのはレオス・フレイム王子。エマと一緒に助けてくれた一人だ。
さわやかな笑みを浮かべてこちらに手を振る。
「王子様が僕に何か用ですか」
「王子様なんてやめてくれよ。ここではただのレオスだよ」
「わかりました。それでどうしたんですか」
「君はエマの幼馴染らしいね。だからエマが色々と気にかけているみたいでね」
「そうなんですよね」
「正直言って、迷惑なんだ」
作った笑顔はそのままで声だけやけに低い。
ああ、俺は知っているこのタイプの人間を性格悪い奴のテンプレだな。過去のクラスメイトの顔がよぎる。この王子様の方が数倍イケメンではあるが。
「エマは僕と同じくらい才能がある。君を気に掛ける時間は無駄だ。どうせ、卒業もできないんだ。やめてくれないか、レイド魔法学校」
「あなたにそこまで言われる筋合いはない」
「あるさ、エマと僕はペアなんだ。エマには自分のことに集中してもらわなければ死ぬかも知れない。僕の身に危険があるかも知れない。君は才能の邪魔をしているんだ」
「それでも僕は僕の人生を生きている」
「強情だな。まあ今日は伝えたかっただけだ。君が後悔しないことを願ってるよ」
変わらぬ笑顔で握手を求めてきた。誰がこんな奴と握手をするか。しかし、こいつはエマのペアである。俺が勝手に敵対して迷惑をかけるわけにはいかない。
握手に応じるとレオスの目はにやりとした。
「君とは大会で是非戦いたいよ」
よっぽど俺を負かす自信があるらしい。俺にも勝てない奴が天才を名乗るなって話だが。
レオスは満足してこの場をさった。
俺は部屋に戻り、ルーズに事の
その結果が良いか悪いかバンにとってもしばらくは決められることではなかった。
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