第11話ダンジョン

ダンジョンは王都を出てすぐにある森の中に作られている。ダンジョンとは長い歴史の中で魔力を持つ生物が死に土にかえることで、魔力が地面に流れ形を形成していくものだ。魔法として技術化できたのは人間だけだが、生物は必ず魔力を持つ。そのため魔法に近い攻撃ができる怪物がこの世界にいる。ゲームで言うところの魔物だな。しかし、律儀なことに生息地から離れることがないため魔物が攻め込んでくるとかはない。国としては魔法士の方が危険らしい。


魔物の誕生には諸説あるが有力な説は2つある。

1つは魔力を持った生物が魔力濃度の高い場所に行くことでその器が魔力に耐えられる形へと進化をとげたという説。もう1つはダンジョンが魔力によって生み出しているという説だ。


ダンジョンと聞くと命の危険を感じるが学校が始まって一か月ちょっとな俺らにそこまで鬼畜なことはしないようで、完全管理されたダンジョンで魔物はいない。代わりにいるのが二年の先輩というわけだ。


「緊張するね」

「ああ一番最初の階で脱落だってあり得る」


ダンジョンの中は広かった。植物が生え巡らせれ、奇妙な花が辺りを灯す。街灯のように。広い部屋の先には五つの階段が続いている。どこの階段を下るかそれは重要な選択となることだろう。


「どれにする」

「判断しようがないな。右側から行ってみよう」


一番右端の階段を下ると川の流れる部屋が広がっていた。真ん中には一人の生徒が立っている。白と黒が基調のマント。イレブンアイのエンブレムが施されている。最もめざとく賢い鳥。知性と判決グループか。杖をすでに構えてる。水は不自然に動いてる。相手の適正魔法は水だ。

俺たちに戦う必要はない。突破すべきだ。


「正面突っ切るぞ」

「そうだね」


ルーズが植物を地面にはやす。視界は植物で埋め尽くされて、ジャングル状態だ。事前に決めていた手はずではないが、ルーズが植物を動かして道をつくってくれる。

これなら簡単に行ける。


「ウォーターカット」


目の前の植物が一気に切られる。ギロチンのように水の刃が植物を刈り取る。俺たちの魔法よりも威力が当然強い。動揺によって動きが止まる。しかし、相手はもう次の選択をしている。最初に動かしていた水が手首に巻き付く。


「ウォーターショット」


顔面サイズの水滴が素早く打ち込まれる。手慣れている。彼にとっては定石のようなものなのだろう。


「プロテクト」


反射的に魔法を唱えた。俺とルーズの周りにシールドが貼られ、ウォーターショットと見にまとわりついた水を弾いた。影をすかさず伸ばして、相手の目に飛ばす。その隙にルーズがショットを放って相手を吹き飛ばす。

そのまま走って通り抜ける。


「なんとかなったね」

「相手が本気じゃなかったからな」


ウォーターカットの時点で相手は勝ちを取れていたはずだ。それに初級魔法しか使っていない。

空間を抜けた先はまた階段だ。次は三階層。影の生まれない空間。近未来のようなラインの入った光る壁、地面、天井と続いている。二人のウリエルの生徒が立っている。


「最初に来たのは後輩か」

「バン・ルシウス君とルーズ・ベネット君だね」

「僕らのこと知ってるんですね」

「バン君は有名だからね、そのペアぐらいはね」

「何故、有名なのかは聞かないようにしときますね」


草魔法と闇魔法の弱点どちらもこの空間では突かれている。草魔法は植物操作を基本とする。人工物のような空間では植物を出せない。影魔法はこの光で影が出てない。もし、先輩たちが即座に気づいて杖を奪われれば何もできない。先に杖を奪うか。いや、今ここで使うと魔力が持たなくなる


「そろそろいくよ。ファイヤボール」

「ヘブンズ」


炎の塊に光がまとまりつく。ヘブンズはバフ魔法だろうか。


「ショット」

「プロテクト」


ルーズのショットに反応して守りを固める。ショットは相手の魔法に打ち消され、俺らを捕らえる。プロテクトもヘブンズのせいか意味をなさずに体に当たる。

マントによって燃えずにすんでいるが痛い。


「基礎魔法を使うってことは不利属性みたいだね」

「闇、草だろうね」

「君たち以外も相手をするから杖は奪わないであげる。でも君たちは運がない、特にバン君はね。もし、ここを突破しても……」

「それは言っちゃダメじゃない」

「そうだな」


たしかにこの部屋を選ばなければこんな状況下ではないかもしれないが、元々厳しい勝負なんだ。泣き言をは言ってられない。

どう考えても俺たちに勝ちはないだろう。突っ切るのも残念ながら無理そうだ。考えてる時間もあまりない。何かないのか。ふと、ルーズを見ると何かを思いついたような顔をしていた。


「バンこの課外授業はペアでの成績だよね」

「そうだけど、それがどうしたんだ」

「基礎魔法での発想活かそうと思うんだ。僕に合わせてくれ。バンならできる。テイクハンド、テイクハンド」


ルーズがいきなり、二人の杖を奪い取った。意図をすぐに考えた。相手の基礎魔法を使えなくすることではない。ましてや、勝つつもりという訳ではないだろう。ルーズの発言を考えろ。ルーズはペアの成績だと聞いた。つまり、俺一人での強行突破ってわけか。次のことを考えると絶望的だが、ルーズの考えに乗るしかない。


すぐ近くの後ろの壁に杖を向けてショットを放つ。衝撃で前方に吹っ飛ぶ。ルーズを横目に捕らえると、一瞬親指を立ててすぐに二人に向けてショットを放ちまくっていた。先輩二人は動揺しながらも適正魔法で防御を展開した。俺はその一瞬の間に先輩二人を飛び越えて階段を転げ落ちた。

地面に倒れたままではあるが四階層に着いたようだ。あたりは暗くてよく見えない。ただ、人影がこちらに近づいているのがわかる。

早く立たないと。手に力を入れて上半身を上げる。

すると頭に強い衝撃が走る。上げたはずの上半身が地面にがっしりとつく。目の前の男が俺の頭を踏みつけているからだ。こんなやり方ありかよ。授業にしてはやりすぎだろ。


「お前は運も悪いらしいな」


声を聴いて、鳥肌が立つ。ニヒルな声質には執着心が感じられる。そうだ確かにこいつは二年生だった。この試験にいてもおかしくはない。

考えていなかった可能性に血の気が引いていく。


「デュラン・カルゴ……」

「この前は邪魔されたからな」

「お門違いな絡み方してくんなよ」

「口が悪いな、奴隷。痛みがないとわからないか。ウンブラキエーンス」


腕に影がぶっ刺さる。マントも制服も貫通して、血がどばどばと体から流れる。脈拍が早くなる。殺されるのか。


「安心しろ殺さないと言っただろ」

「こんなの死ぬだろ」

「だから加減しているだろ」


ふざけんな。俺が習ってきたのを初級魔法とするならこれは上級魔法くらいはあるだろう。このマントと制服すら貫通する威力。杖の方向をなんとかデュランに向ける。


「ショット」「プロテクト」


デュランはまるで体に染みついた行動のように被せてきた。反射神経だとしたら化け物すぎる。


「ウンブラキエーンス」


太ももが突き抜かれる。自分の声とは思えないほどの悶絶がダンジョン内を響く。


「奴隷は躾けないとな」


これはガチで死ぬ。わからないが涙がこぼれてくる。悔しいってのはこんな感情なのか。

魔法がもっと使えたら、才能があったなら、バン・ルシウスが強かったら。何か変わっていたんじゃないか。

認識が間違っていた俺はこの世界をゲームとして思っていた。しかし、この痛みと悔しさが全部本物だと言っている。これは現実だ。嗚咽が漏れだす。デュランは笑っている。

俺はただやけになって足に嚙みついたけれどもデュランに瞬時に頭を蹴り飛ばされた。口の中に苦い味が広がってまた頭が地面につく。出血のせいかもう意識が遠のきそうだ。

いやだ、いやだ、死にたくない……

あんな世界に戻りたくない…………………


「トニトルス」


雷電が暗い空間を一瞬照らして、デュランを襲う。服と肉の焦げた匂いが消えかけた意識を取り戻す。デュランは膝を地面につけて俺の後ろを睨んでいる。


「またお前か、エマ・フォカロル!!」


憤怒の声がこだまする。この魔法はやっぱりエマか。しかし、なぜここにエマがいるのだろうか。追いつくには速すぎる。


「許さない。二度もバンをこんな目に合わせるなんて」


初めて聞くエマの低い声は少し怖い。今の魔法の威力、制服のダメージ、上級魔法か。

エマの才能は本物らしい。


「落ち着くんだエマ。上級魔法を生徒にするのは違反行為だ」

「こいつが最初にバンにやったんだ」

「だとしてもだ。君の実力ならデュラン先輩を倒せるだろ」


この声は誰だ。エマのパートナーらしき優しい男の声がする。


「レオス・フレイム、王子様がペアかよ」

「すみません。デュラン先輩、行く末は王となる身です。不正を見逃すわけにはいかないです。ただ、こちらも感情に身を任せて不正をしてしまいました。ここはお互い身を引きませんか。彼はこちらでなんとかしますから」

「くっ、、、わかった。そうしよう」


俺はまたエマに助けられてしまった。情けなさと恥ずかしさが込み上げてくる。もう立ち上がることすらできない。意識を保つのだって限界だ。


「バン、大丈夫」


俺には差し出された左手を握ることはできなかった。

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