第10話適正魔法

二週間たって学校生活は思いのほか充実していた。俺自身の基準が低いのか不快感なく学校に行けているだけで、進歩したように思う。とは言っても、ルグルスの生徒に合わないように教室移動だけの引きこもり生活になってしまっているのだが。あいつらの気持ちが風化するまでは少なくともこうするしかない。

基礎魔法では、攻撃魔法のショットと特殊魔法テイクハンドの他にシールドを張ることができる守備魔法プロテクトと回復魔法ヒールを覚えた。

適正魔法の授業は今のところはない。基礎知識の詰め込み、体育のようなもの、植物学がメインだ。魔法士が愚かにしがちな体力づくりと今後の課外学習で必要になる植物学の知識をメインに学んでいる。今は朝のHRといったところだ。


「皆さん五月には、課外学習のダンジョンがあります。ダンジョンと言っても相手になるのは二年生です。ルームメイトと共に攻略して指輪を入手してください。階層が下がれば下がるほどに二年生も実力を出していきます。今回の授業は成績に大きく関わるのでなるべく下の階層にいくようにしてください。二年生に勝つ必要はないですから。そしてこれからの授業はペアでの連携をメインに適正魔法についても習っていきます」


適正魔法の授業は選択科目のように属性ごとにわかれた。複数ある場合一番適性が高いもので授業を受ける。選択の授業でも他のグループと一緒に受けることはない。あくまで、ウリエルの生徒でわかれて授業を行うようだ。ウリエルの生徒の場合は炎、水、光の適正の割合が高い。闇はほとんどいない稀有な存在で、他は均等にわかれている。ほとんどいないと言ったが今年は俺だけだった。


「ウリエルの生徒で闇適正なんて何年ぶりだろうな」


闇魔法を使うとは思えないがっちりとした体型身長は二メートルほどあり、がは、と特徴的な笑い方をしながら立派なあごひげを触るこの男はウリエル闇魔法担当教師ガウル・エンドラ。


「そもそも魔法適正、魔力量ともに最弱ですから」

「知っておるわ。入学式はしかと見ておったからな。今年も担当はないと思っていたんだがな」

「ルグルスで教えたりしないんですか」

「この学校の方針は知っておるだろ、九十九%の魔法の才能と一%の正しき努力。それを実現するための教師陣だ」

「あのオロバスのクラス分けも信憑性が高いということですか」

「当たり前じゃ。教師陣は一番注目している。お前は面白い反応をされていたな」

「そうですかね」

「がは、周りと同じじゃないというのは悪いことじゃないぞ。じゃあ授業を始めよう。適正魔法の特徴はわかるな」

「基礎魔法と違い属性そのものを操ること、杖がなくても使える」

「そうだ。闇を操ることを想像ができるか」

「辺りを暗くするとかですかね」

「違うな。天候まで操れるのはそりゃテンサイだ。ほとんどの者が操るのは影だ。見ておれ」


果たして今のテンサイはどちらのテンサイと変換するのが正しいのかね。天才か天災か。

いや、そんなことはどうでも良かったな。

ガウル先生が杖を握るとガウル先生の影が動いた。影は立体的になったり、大きくなったり小さくなったりした。


「水や炎と違って影を生み出すことはできないが、自分にまとわせたり、遠くにある影を扱うことはできる。光魔法にめっぽう弱いが影をつたえば移動もできる。利便性は優れものだ」

「魔力はどれくらい必要ですか」

「それはコントロール次第だが、魔力量が少なくともマスターすべきだな。どの属性魔法もそうだがこれが基本だ」

「風魔法と岩魔法との相性はどうですかね」

「お前のペアか」

「はい」

「岩は少なくとも相性がいいな。光を遮り影をつくれる。風は……まぁいまいちだな」


風はいまいちか、ダンジョン攻略までの時間を考えれば一つしか無理だろうな。ルーズは風の方が得意だ。あまり相性はよくない。


「テイクハンドを防ぐ手段ってありますか」

「ないな。プロテクトで守ろうがもってかれる。杖の予備を準備しておくことくらいしかできんだろうな」

「そうですか。残念です」

「がは、安心せぇ、テイクハンドなんぞ普通は使わん。とりあえずお前は影を常に動かすんだ。どれだけ動かしていられるかの目安をつくるんだ。感覚を体に覚えこませるんだ」


そこからずっと魔法適正の授業は影の操作を訓練した。小さく動かすくらいなら連続で三十分が限界だとわかった。範囲を大きくすれば十五分。立体にすると十分だ。

魔法適正も魔力量も増えることはない。あるものだけでなんとかするしかない。

出力の無駄を減らすことはできるだろうが。

三週間が経過する頃には操作もある程度できるように進歩した。ルーズとの連携もある程度しっかりとれている。実戦科目でやってることは二対二のスポーツなので戦闘に生きる気がしない。バトミントン、卓球、テニス魔法とは一切関係なかった。

純粋な運動神経なら俺はいい方だ。対人戦はせずに課外学習日になってしまった。


「今日はいよいよダンジョン日になりました。魔法基礎や適正魔法を駆使してがんばってください」

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