第9話基礎魔法

「バン今のうちに遠くに行こう。起きたら大変」

「あ、ああそうだな」


部屋に行ってもよかったが、ルームメイトもいるので教室に行くことにした。ルグルスの生徒なら入れないし、放課後だから誰もいないからだ。


「エマもレイド魔法学校に来たんだな」

「だってお父様はバンに会っちゃ駄目だと言うし、メイドもみんな私の行動を監視してるから会いに行けないんだもん」

「あはは、僕も脅されてた」

「でも、会えて良かったーここなら好きにできる」


エマは前よりもずっと明るくなったみたいだな。ただ、無鉄砲さは変わらないというかなんというか。


「あのさ、、、聞いたよ。魔法は向いてないんだってね」


エマは遠慮がちに聞いてきた。


「うん。兄さんとは真逆だった」

「学校やめたい?」

「そうでもないよ。まだ、よく知らないし」

「そっか、辞めちゃわないか心配だった。じゃあ一緒にがんばろクラスは違うけど」

「何組?」

「Bクラス」


いったん解散とすることにした。ルーズに心配をかけたままだ。ルグルスの生徒のこともある。たった一回でやめるようなやつじゃないし、恨みも深そうだ。しばらくは外を出歩かないようにしておこう。自衛のためにもはやく魔法を覚えないと。

部屋に戻るとバンが心配そうに入り口で待機していた。


「大丈夫‼」


俺の顔を見ると泣きそうな顔で抱きついてきた。


「よかったー無事で、ごめんね、怖くて戻れなかった」

「大丈夫友達に助けてもらったから」

「友達?」

「小さいころ一緒に遊んでたエマっていう女の子」

「エマって、あのエマ・フォカロル」

「知ってるの」

「うん、今年入学したウリエル生徒の中でとびぬけた才能をもつ一人だよ」

「やっぱそんなにすごいのか」

「今年は豊作らしいけど、入学前から魔法を使えるのはイレーナ・アルレヒドとエマ・フォカロルそして王子のレオス・フレイムの三人だけ」

「ほかの寮は」

「よく知らないというか、寮ごとでちょっと閉鎖的なんだよね。これも最初だけだと思うけど」


ほかの寮のことはまだあんまり明かされていないのか。学園ものの特徴で言えば対抗戦とかもありそうだしな。

エマは変わったな。草原で泣いていた女の子があんなにかっこよくなってるんだ。すごいな。


「僕も頑張りたいな。早く魔法を学びたい」

「明日が楽しみだね」


***


「おはようございます。皆さん今日からは実際に魔法を学び扱うこととなると思います。そこで一つ心にとめておいてほしいことがあります。魔法は簡単に人を殺せますし、才能があればたった一人で国家を転覆できるかもしれません。それゆえに魔法というのは身の振り方を忘れさせてしまいます。特にウリエルの生徒は正義を掲げるものが多いです。正義は仲間意識を強く感じることもあれば、正義そのものが異なれば大きな対立を生むことになります。だからこそ、自分の魔法に責任を持ってください。正義が揺らげば利用されます。白か黒かで考えなくてもいいんです。皆さんがより良い学びを得られることを祈ります。では、今日も一日頑張ってください」


セシル先生は真面目な顔をして話した。

この言葉は心にとどめていた方がいい。俺は才能がないから利用とは無縁かもしれないが、ルーズ、特にエマは魔法の才能に秀でている。もしかしたら、俺だから気をつけることができる分野かもしれない。主人公の立ち位置というやつだ。

一時間目は基礎魔法。ここでは魔法についての基本的な知識と適正魔法とは関係ない魔法を学ぶ。主に攻撃、回復、守備、特殊の四つにジャンル分けされ、コントロールと魔力量が重視される。

適正魔法ではコントロールよりも魔法適正が重視されそれらの掛け算で強さが変わる。唯一当てはまらないのが特殊魔法。透明化、変装、千里眼、サーチなどの威力を必要としない魔法のことをそう呼ぶ。適正魔法と違って、相性の有利不利がないため魔法適正が少ない人はそれぞれ一通り覚えるのが一般的とされるみたいだ。俺のような奴には必須。しかし、イレーナほど適正魔法が多ければ特殊魔法だけで十分だ。知識としてどんなものがあるか知っていれば問題ない。基礎魔法は不利を取られないが有利をとることもできない。


「座学はこの辺で実技に入ろうか」


魔法基礎の男性教師、オメガ・ナインがチョークを置いて杖を握る。


「まずはそうだな。イレーナ魔法を扱う者にとって杖とはなんだ」

「魔法のサポートです。魔力の消耗を抑えながら威力をあげることができます」

「その通りだ。しかし、補足が足りていない。それは適正魔法にがぎった話だ。魔法基礎を扱う場合杖なしでは魔法は使えない」

「使えないのですか?」

「杖は生きている。魔法基礎は杖そのものに埋め込まれた魔法と考えろ。杖を作ったものがそうしたわけではないが、杖を作れば必ず魔法基礎が使える」

「杖が生きていると言えるのでしょうか」

「学校生活を送ればわかる日が来る」


杖が生きている。面白い話だなと思う。使う者と共に成長するかっこいいじゃないか。


「では、ひとつ実践をしよう。イレーナ杖を構えろ。実際の戦闘だと思ってやってみろ」


イレーナが杖をオメガ先生に向けて、右肩を前に出し、右重心に構える。敵の魔法を警戒し、すぐに魔法を放てる体勢にしている。一方オメガ先生は特に構えているわけじゃないただ杖を向けているだけ。最初に動いたのはオメガ先生だ。


「テイクハンド」


イレーナの手から杖がはじき飛ぶ。いや、引き離されたの方が正しいか。とにかくイレーナの手から杖は離れて、オメガ先生の元に引っ張られるように奪われた。イレーナは何が起きたのかと驚いた顔をしている。


「しっかり握っていたのに」

「魔法の力に素手の握力では勝てない。もっとも握力で無理やりという感覚ではなかったはずだ」

「そうですね。手から滑りぬけてはじかれたような感じでした」

「うむ。ではルームメイトとペアになって行うんだ」


この魔法は俺みたいなやつには一番重要なのではないだろうか。魔法適正も魔力量の少ない俺が勝てる方法なのではないか。そのためにはこの魔法の確実性が問われる。両手でぎっしり持っていても奪われるのか試したい。


「ルーズやってみてくれ」

「わかった。テイクハンド」


両手で握ってた杖は滑るように抜かれて、握っていた手は弾かれた。どんな原理だ。

摩擦がなくなったのか。それともに原理とかはないのか。

ふと、ルーズを見ると膝に手をついてキツそうな顔をしている。


「これ魔力消費が激しすぎる」


ほかの生徒もだいぶもってかれているみたいだ。魔力量が高い生徒ですら少しだるそうに見える。


「ルーズ僕もやるよ」

「うん、お願い」

「テイクハンド」


体から力が流れているような気分だ。杖はきちんと奪い取ったが脱力感と倦怠感が体にのしかかる。これは使えないな。魔力はほとんど使いきってるし、これをした後すぐに動ける気がしない。


「大丈夫?汗すごいよ」

「僕にはきつすぎる」


オメガ先生はへっちゃらそうな顔してたのにな。単純な魔力量なのかそれとも歴の差がものを言うのか。


「やってみてよくわかっただろうが、この魔法は強いが魔力消費量が高い。複数人いる場合では向かなず、一対一でも実力差がわからなければ賭けになる。ただ、適正魔法で有利を取れている場合なら使うことも考えろ」

「オメガ先生この魔法で奪えるのは杖だけですか」

「基本は杖だが、条件次第だ。杖のような軽いものであることや唱えた時に視界に入っていることが必要になる。重いものはより魔力を奪われる。しかし、君はこの魔法を使うのはおすすめしない。この魔法を使ったあとでは次の一手が打てないだろう」

「では、僕でも使える攻撃魔法を教えてください」

「そうだなショットを教えよう。この魔法は殺傷能力は低いし、ダメージもあまり期待できないがある程度扱えるとなればこれだろう。前に出ろ」


杖を一応構えた状態にした。オメガ先生がショットと唱える。杖の先から出た衝撃波が着弾して大きく後方に吹っ飛ぶ。そのまま教室の壁に体をぶつける。


「ショットは見た通り衝撃波で相手を飛ばす魔法だ。ショット自体で与えるダメージは少ないが工夫次第で相手を倒すこともできる。痛みは制服とマントが抑えてくれる。みなもペアで実践だ。三本勝負はじめ」


威力とは関係なく、ノックバックがついている。確かに扱い次第では色々出来そうだ。


「バン本気で行くよ」

「もちろん」


ショットの打ち合いはルーズの方が有利だ。すでに魔力のほとんどがない俺からしたら無駄打ちは負けへと近づけてしまう。ショットを回避するには相手が杖を向けてるうちに避けないといけない。前世と違って体は動く。なら回避しながら近づいて打つ。

やはりルーズにとってショットは負担ではない。遠慮なく打ってくる。だからこそ、一定のリズムが生まれている。口にする時間のタイム分で近づける。


「回避うまいね。でもこれならどうかな」


ルーズが打つのをやめた。攻めるかそれとも様子を見るか。そんな余裕はないチャンスはもらう。ルーズに向けて一直線に走りながらショットを何発か打ち込む。


「ショット」


ルーズのショットは俺の打ったショットを消し飛ばして、俺の体に着弾した。そうか、込めた魔力量を大きくしたのか。油断した。一本取られたな。量の勝負ならまだ狙いすましていけると思ったが質も負けてるんじゃ厳しい。


「次も僕がもらうよ」

「今のは油断しただけだ」


ルーズはすでに魔力を込めている。さっきの感じだとスピードも上がってる。何かいい方法はないか。真正面からじゃ太刀打ちできない。いや、ルーズは一発で勝負を決めるつもりだそれなら勝機はある。ここの天井はそんなに高くない。七メートルくらいだ。どうなるかわからないけど、アレならどうだ。

俺は杖を構えないで正面に走った。


「ショット」


ルーズの魔法が放たれる。魔力のためすぎで反動を負って体勢を崩している。俺はすぐにショットの魔法を足元に打ち込んだ。ショットによって床で起きた衝撃をばねに上方向に飛ぶ。そのまま上空からショットを打つ。ルーズに着弾。


「やられた、無茶なことするね。でも次はないよ」

「そうかな」


基礎魔法の復習の時間だ。魔法基礎は何がないと使えないんだっけ。そう杖です。これをすれば勝ち確なんですよ。確実に勝利を貰う方法を思いついた


「テイクハンド」

「え、」

「ショット」


すぐに杖を奪い取りすかさず、ショットを打つこれが必勝法だ。でも残念、魔力は底を尽きた。俺はその場に倒れこんだ。試合に勝って勝負に負けるとはこのことだ。






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