第6話門出

十五歳となる歳を迎えた。

十五歳それは魔法が発現し、個人の進路を歩むこの世界で重要な意味を成す。


貴族は学校へ通うことが多い。分野は主に魔法、工業、商業の三つに分かれる。

学校は全て専門だ。魔法を学びたいものは魔法学校、ものづくりを学びたいものは工業学校、商業を学びたいものは商業学校。魔法学校はほかの二つと違って専門性が低い。魔法は全てにおいて万能だ。家柄ややりたいことが明確でない者は魔法学校を選ぶ。そして俺もレイド魔法学校の門をたたく。


一方貴族でない平民は家の仕事を継ぐことが一般的だ。稀に魔法の才ある者は学費、授業料もろもろすべて免除で入学させられることが強制される。

強制されるのは過去に才はあったが、貴族でないが故に入学できなかった者が、独学で魔法を学び反乱を起こした。それに対して国は手をやいて大きな被害を出したそうだ。

近年入学へのハードルは低くなりつつある。魔法に対する知識や魔法の才が乏しくとも研究で成果を出せば費用を免除する制度もできたし、奨学金のように借りることもできるようになったからだ。

以上が父から説明されたことだ。


「バンもついに学校か」

「お父さん寂しくなるな」

「いつでも帰ってきていいからね」

「ありがとう、でも頑張るよ」


期待と不安が積もる中家を出た。

王都までは機関車で行く。動力源はほとんど魔力。魔力をなるべく消費しないように部品がつくられ、営業が各地に足を運びレールの許可を得た。学問の象徴みたいなものらしい。


機関車の中を見わたすと制服を着た新入生ばかりだ。俺と同じ制服の者もいるが別の制服の方が多い。しかし、王都に近づくにつれて数は逆転した。

やはり、魔法学校の生徒の方が多いというわけだ。日本の学校よりも入学することのハードルはお金以外は低いというか試験もないみたいだしな。魔法発現が十五歳じゃ試験のしようもないのだろうけど。


王都に着くとぞろぞろと学生が下りていく。その流れに従って俺も下車して、歩く。

土地勘なんて当然ないので、同じ制服の人についていく。

王都はたしかに広い、建物もでかい、見たことのない商品も売ってる。

そのかわり、緑は一切ない。街中には川が流れている。汚くてもおかしくないのに透き通っている。唯一緑があるならこの中くらいだろう。

駅から歩いて十分ほかの建物とは一線を画す建物が見えた。広大な敷地とコンクリート素材の四角い棟がいくつもある。ここがレイド魔法学校か。


「バン、五年ぶりだな」


門の前に立つ男は以前あった時よりも筋肉が発達して身長も見てすぐわかるくらいに伸びていた。風魔法を使って無邪気な顔をしていた人とは思えないほど凛々しい顔をしている。


「シン兄さん」

「背伸びたな」

「兄さんこそ」

「バン邪魔になると悪いし、さっさと学校に入ろうすぐに入学式もあるからな」


兄さんは既に卒業生だ。なのになぜ制服を着ているのだろうか。


「兄さんどうして制服着てるの」

「ああこれはなちょっとした伝統なんだ。前年の代表生が新入生へのスピーチをするんだ」

「そうなんだ」

「ともかく、あの建物に行くんだ。俺は行かないと行けないから」

「またあとで」


兄さんは手を振ってどこかに走っていった。言われた通りにあそこに行くか。ほかの生徒も行ってるみたいだし。入学式だとしたらクラス発表が先にあってもいいような気がするけど。でかい建物だし、体育館的な場所かな。

建物の中に入ってもクラスを伝えられることはなく来た順番に座らされた。

五分ほど待つと全員集まったのか合図のように会場が暗転する。会場が静けさに包まれる。誰もが黙り、視線は一人の男に注がれた。男は満足したのか口を開いた。



「生徒諸君、入学を歓迎する。君たちに待ち受けるは希望か絶望のどちらかだろうか。魔法とは九十九%の才能と一%の正しき努力だ。それほどまでに残酷な世界だ。わが校の卒業率は綺麗に五十%だ。退学する者の一割が才能の差を感じ自主退学。二割は死亡。残りは強制退学だ。強制退学の基準は入学時点の人数から半数を不合格とする。今年の入学者は五百人。つまり二百五十人は卒業できない。それは今隣にいる者からかもしれないし、君たち自身かもしれない。これは最後通告だ。今から五分以内であれば去ってもいい。他校に移ることも可能だ。さぁ選択するがいい誇り高きレイド魔法学校かそれ以外か君たちには選択する権利がある」


果たして、今それを言ったところで動き出す生徒はいるのか。ここにいるやつらは自身の才能に期待して、ここにきている。目の前にある可能性を求めないやつがいるのか。誰もが動かないそんなことはわかっているはずだ。毎年やってんじゃないのか。


「五分が経った。素晴らしい君たちは誰一人としてこの場を離れることはなく、たった今わが校への入学が正式に決定した。我々が提供するのは正しき知識と一%の正しき努力のやり方だ。そして、彼が去年の最たる例だ。シン・ルシウスこちらへ」


会場に流れるは弱い風。体をなでる程度の柔らかい風。本来だったら何も思わないような風だ。でもなぜだか感じる。まるで命を握られているような生命的恐怖を。体が緊張して動けない。脂汗も出てきた。まるで天敵を前に死んだフリをしているよな緊張感があった。一瞬でも気を抜こうものならこの風に頸動脈を掻っ切られて死んでしまうと本能が叫んでいる。それをなしているのは舞台の上に立って俺らを見つめる兄さんだ。


「どうも、初めましてシン・ルシウスです。皆さんが感じているのが魔法です。使うものによっては簡単に人を殺せる。それが魔法です。一方で世界を発展させ人々を救うのもまた魔法です。五年間かけて君たちが学ぼうとしている事はそれほど強大なものです。実際に感じて、十分に伝わったことでしょう……と、脅しはここまでとしますね」


体をめぐっていた風がとかれると安堵の感情が流れる。兄さんがしていたのは風の操作だけで魔法を唱えていない。名前のない魔法か無詠唱なのか。周りから感じるのは兄さんへの畏怖と尊敬だ。


「ここは君らにとって良い学び舎になる。やりたいことを見つけるのに優れている。魔法の才能は授業の結果を見れば一目瞭然だ。向いてることが簡単にわかる。ただ、才ある者もうぬぼれれば簡単に命を落とす。これだけは覚えておいてほしい。長い話はつまらないだろうから最後に祝福を送るよ。祝福の風ブレッシングウィンド


会場中を包み込んだあたたかい風は安心と勇気を与え、シン・ルシウスへ向けて、拍手の嵐が巻き起こる。

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