第5話逆戻り

疫病神みたいな気分だった。ゲームの主人公ってこんな気持ちになるのか。

初めて会った少年だって死んだら何か思うところがある。

これなら引きこもり生活をした方がいいかもな。ちょうど兄さんも気を使ってくれてるしな。

前世を思い出す。学校に行っても楽しくなくて、早く帰りたくて、ゲームがしたくて、寝たらもう学校に行かないと行けないから夜更かしを続けて、いつしか行かなくなった。

嫌なことはないが、楽しいこともない。

ゲームの主人公だというのに。


「バンちょっといいか」

「どうしたの兄さん」

「楽しくなさそうだな最近のお前は」

「まぁいろいろあったから」

「エマちゃんだっけその子の影響だろ」


接近禁止命令が出てるでね。近づいたら殺されちまう気がする。

そもそもこの世界で死んだら俺はどうなるのだろう。便宜上前世と呼んでるあの世界とリンクしているのか、もしくは前世に戻るのか。

それは考えたくないな。クソみたいな人生を歩むだけだ。それも結局死とたいして変わらない。


「よくわかるね」

「似た経験がある」

「どんな」

「好きになった女の子と離れ離れになった」

「会えないの?」

「会えないさ、魔法で殺されたんだ。慢心してた僕をかばって」

「兄さんが慢心?」

「魔法の才能を過信してた。誰よりも上手く扱えてる自信があった。だからいざというときに足元をすくわれた。自分の行動をいつも悔いてるよ」


この話と今の状況ではかけ離れていないだろうか。まあ兄さんからしたら同じなのか。俺からしたら好きな子ヒロインに会えないだけにすぎない。殺されたわけではない。


「だから会える可能性が残ってるお前はしくじんなよ」

「しくじるも何も会えないじゃん」

「希望をなくしてることが問題だ。俺はもうすぐ学校に戻るからアドバイスだ。五年後レイド魔法学校にこい。そん時俺は卒業してるがそこなら新しい希望を見つけられると思う。俺は見つけたから」


この会話に何の意味があった。俺は魔法学校に行くつもりだったし、その五年間が特にできることがなくて暇ってだけなのに。残念ながら俺はバンではないんだ。あって数日の相手にそんな話をされても何も思わない。俺はあまり良い奴じゃないんだ。


「それまで何をしてればいいんだよ」


投げやりに言った。


「なんでもいいよ。やりたいことをしてればいい。それがいつかやってて良かったって思える日が来ると思うから。頑張れ」


俺は結局何もしなかった。きっと同じ日を繰り返したとしてわからないほど変化のない日々を過ごした。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る