第2話父と母
「だめ!バンは私を助けてくれたの」
「しかし、伯爵家に知られるのはエマが危険な目に合う」
「それは私が悪魔の子供だから」
「違う。悪魔の話を信じるのは子供だけだ。迷信に過ぎない。バン・ルシウスは問題児なんだ。彼は記憶がないみたいだがそれまでの彼の情報は素行は悪いし、喧嘩っ早い。一緒にいたら悪影響なんだ」
「そんなことない」
「お父さんはなエマに悪い虫がつかないようにな」
「そんなことでバンのことを……お父様なんかだいっっっきらい!」
エマは小さい体でバンを背負ったつもりで引きづりながらのこのこと自分の部屋へと運んで行った。
お父様の言っていたことは本当なのかしら。この髪色は悪魔の子供じゃないのかな。
部屋に置かれた鏡ごしに金髪としかいいようがないこの髪をみる。髪色を気にしてからはずっと女の子らしさがぎりぎり残るくらいまで短くしていた。外を歩けば同じくらいの年の子には嫌な顔されたり、石を投げられたり、もっと小さい子には泣かれたりしたこの髪が本当に迷信なのだろうか。
考えてみれば私の周りにいる大人はそんな素振りを見せたことがない。
***
「バン起きて」
「あれ、エマ。僕寝ちゃったのか」
「ごめんなさい。お父様がお薬を入れたみたいで」
寝る間際のことは夢かと思っていたけどほんとだったのか……あれれもしかして命の危機だったか。いやさすがにそんな簡単にゲームオーバーになるわけないよな。だがしかし、俺はゲームの内容を知らない。もしかしたらとんでもない死にゲーのクソゲーかもしれない。そもそも本来のルートを歩めているのかわからないじゃないか。
「ここで待ってて今度こそバンのお父様とお母様に伝えさせるから」
バタバタと部屋を出ていってしまった。今は別のことを考えよう。バン・ルシウス。パッケージを思い出すんだ。どんな人物だった。エマとの出会いは……そうだ。たしか物語の始まりは学園だったはずだ。出会いはバン・ルシウスが誰かをいじめてるところにエマにぼこぼこにされる。改心して友達となる。そこまでしか思い出せない。
だが、ずいぶんと出会いが変わってる。まぁそもそも俺が主人公になったところで上手くやれる自信がないしな。前世はモブ人生すらまともに歩めなかったしな。はは笑える。
「バンおまたせ、すぐにくるって」
「よかった」
「ねね、せっかく友達になったからバンの家にも遊びに行ってもいい」
「もちろん」
この世界の母と父どんな人だろうか。楽しみだ。子は親に似るということだし、鏡で自分の顔を見ることにした。おお、かなりの美形じゃないか。赤茶色の髪の毛にくりくりとした目。鼻筋も通っている。前世の醜い豚とは違うな。あれはポテチとかジュースを飲みまくったからなんだけどね。俺がまだ痩せていた頃を思い出してもブサイクだったことは覚えている。
「バン様お父様がお見受けになりました」
「あ、はい。今行きます」
「またね。バン」
「またね、エマ」
***
バン・ルシウスの父の名はアルス・ルシウスという名らしい。冒険者として名をはせて伯爵までになったらしい。現在は領主として街の治安維持で生計を立てている。見た目に関して言えば父親はでかかった。糸目でがたいが良くてゲームなんかだったらザ・最強キャラみたいな男だった。迎えに来るや肩に担がれて馬車に乗せられた。これは反抗的になるよ。十歳だよ。かっこつけたい年頃だよ。素行悪くなるよ。一方母親であるミカ・ルシウスは美人だ。俺の目は母親譲りだろう。髪の毛は黒色。日本人みたいにきれいな髪だ。艶やかな体つきで涙ぼくろが印象的でぷっくりとした唇は血色の良い薄いピンクだ。両親はまだどちらも三十代前半くらいと若い。
父も母も良くも悪くも放任主義というかのびのび育てるそんな印象だった。
「お父様僕はどんな人だったんですか」
「バンはバンだよ」
「それじゃわかんないですよ」
「まあなんだしたいようにすればいい。それがバンだ」
したいようにすればいい。高校生だった俺にすらその権利はもうなかった。
したいようにそれがわからない。時間と共に狭まる進路と学校に行かない罪悪感。あのまま大人になったらきっと……いやそんな暗い気持ちになるな。せっかくイケメンに生まれ変わったんだ。前世でできなかったことをするんだ。
「お父様エマに会いたいです」
「なんだフォカロル家のご令嬢に惚れたのか」
「そ、そうじゃないですよ。友達になったんです」
「んー叶えてあげたいが難しいな。フォカロル家の当主様は娘を溺愛してるんだ。それも少し異常なくらいにな。まあ金髪に生まれちまったのもあるんだろうが」
「悪魔の子の話ですか?」
「本でも読んだのか?」
「いえ、エマがそう言っていたので」
「悪魔の話は迷信だ。大人は信じちゃいない。子供に言うこときかすための話だと一般的にはされてる」
「一般的にというのは?」
「俺はこの迷信が嫌いでな。昔、仲間と調べたことがあったんだ。証拠と言えるものはなかったがとある国では子供大人関係なくその悪魔を信じてる国があった。行ってみればわかるがおかしな国だったよ。だからというわけじゃないが俺は本当にあった話だと思ってる。そこでは悪魔の少年には名前があったはずなんだけど、忘れちまったな。覚えずらい名前だった」
「結局エマに悪いところなんてないです」
「そうだな。ちょっとした不運だ。時間がもしくはバンがどうにかしてやれ」
「でも会えないんですよね」
「まあな」
エマのお父さんに殺されるのはごめんだしな。実際睡眠薬盛られたわけだし、危険な橋はわたるべきじゃないな。それにもともとはギャルゲーなんだ。どこかで出会う機会があるはずだ。ヒロインと主人公の運命力は尋常ではないと信じている。
その翌週にはエマと再会することを俺はまだ知らなかった。
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