第38話 波濤の騎士


 フィリアとハースの二人が、砦に侵入した頃、盗賊砦に近づいている一団があった。


 騎兵が八騎。


 牡鹿の紋章旗を掲げている。


 先頭は、バテルだ。


 その横に、メイドのイオ。近衛のマギアマキナ、ウル。


 残りの五騎は、マギアマキナ、ガイウス率いる騎馬隊だ。


 全員が屈強なゴーレム馬を駆っている。


 特にガイウスの駆るゴーレム馬は大きい。


 ガイウスは、まるで嵐が吹き荒れる大海の波の如く荒々しい紺碧の大鎧でその身を固め、手には黄金三叉の巨槍を持っている。


「ふん、このガイウスにかかれば、あのような貧弱な砦すぐに陥落しましょう」


 ガイウスは、鼻息を荒くする。


 盗賊砦攻めを任されたのは、ガイウスだ。


 この夜、セプテントリオ帝国街道周辺では、マギアマキナたちによる盗賊狩りが一斉に行われている。

 

 盗賊狩りに出たのはルピアとアモル、そしてガイウスだ。


 バテルは、ルピアやアモルには任せきりだが、ガイウスは猪突猛進なところがあるので心配でついてきた。


「期待しているぞ。ガイウス。盗賊は殺すな。捕えるんだ」


「わかっております。ガイウスめにお任せあれ。はあ!」


 ガイウスが一人、馬蹄を轟かせ、突撃していく。作戦も何もあったものではない。


「ガイウス兄上!」


 ガイウスに付き従う第二世代マギアマキナたちは置いてきぼりだ。


「アンフィ。ガイウスを頼む」


 バテルが、ガイウスを追いかけようとしていた金髪の女性型マギアマキナに声をかける。


「はい、父上」


 女騎士のマギアマキナ、アンフィは、バテルに敬礼し、颯爽と夜の森をゴーレム馬で駆け抜けていく。


「ウル。また留守番ですまないな」


「いえ、私は……。その父上と居られる。いえ、お守りできる方がいいです」


 ウルは、見た目こそ紅髪紅瞳の凛とした美女だが、甘えん坊の子供のようで愛らしい。


「ふふ、それにしても、あの盗賊たち、様子がおかしい。盗賊らしくないような気がします」


 イオが超人的視力で、盗賊たちの様子を捉える。


「捕まえればわかるさ」


 バテルたちもゆっくりと馬をすすめる。





「我が名は、ガイウス。バテル・クラディウス家臣、一の猛将なり! かかってこい臆病な盗賊ども! 成敗してくれる!」


 ガイウスは、砦の前で馬をいななかせ、大音声で名乗りを上げる。


「なんだ、あいつは? 頭がおかしいのか」


 砦の見張り台からその様子を眺めていた盗賊は、疑問符を浮かべる。こんな夜更けにたった一騎で盗賊の巣くう砦に挑むなど、ただのバカである。


「どうする? クラディウス家の者らしいぞ」


「連中は、今頃北の国境のはず。一応、報告だ。あとは弓か魔術マギアですぐに追っ払えるだろ」


 盗賊たちは、完全にガイウスを狂人と見ているが、ガイウスが常軌を逸していることを盗賊たちはすぐに理解することになる。


「出てこぬというのなら押し通るまで!」


 ガイウスは、馬から飛び降り、


蒼渦術ハイドロギア


 巨槍を天に掲げる。


 槍を通って膨大な魔力が吹き上がり、周囲の水を集めていく、


 巨大な渦となった水を槍が纏い、ガイウスの頭上で回転を始める。


激流槍トレンティス!」


 ガイウスが巨槍を振るうと、巨大な渦が放たれ、城門に向かっていく。


「お、おい。なんだ、あれ」


「やべえぞ。逃げろ」


 盗賊が城壁から転げ落ちるように逃げようとするがもう遅い。


「逃げるか。臆病者共があああ!」


 ガイウスが叫び、巨大な渦が砦の城門を木っ端みじんに破壊する。


 魔力で形作られた激流が巨大な龍のごとくうねりながら、砦を破壊し、盗賊たちを呑み込んでいく。


「ガイウス兄上……派手にやりすぎ……」


 ゴーレム馬を走らせ逃げ散った盗賊を捕縛しながら、アンフィがぼやく。


「兄上らしくていいじゃないか」


 とマギアマキナのルキウスがはしゃぐ。


 他のマギアマキナも嬉々として戦闘を楽しんでいる。


「ガイウス隊はバカしかいないのかしら」


 アンフィは思わずため息をつく。


「俺と戦え!」


 ガイウスは、まだ暴れ足りないのか敵を求めて、三叉槍を振り回しながら吠える。


「滅茶苦茶にしやがって、狂人め。いいだろう。俺が相手をしてやる」


 ガイウスの前に一人の騎士が躍り出る。


 逃げ散った盗賊たちとは明らかに違う。


 筋骨隆々の大男で、立派な鎧を身に着け、大槍を振るっている。


「ほう、盗賊にも少しは骨のある奴がいるようだな」


「少し、魔術マギアが使える程度で、いきがるなよ」


 騎士の男は、魔術陣を複数展開し、身体能力を強化していく。


魔術マギアに自信があるようだな。だが、俺のは魔術マギアじゃない。蒼渦術ハイドロギアだ。そのような中途半端な術と一緒にするな」


 ガイウスは、その身に水を纏う。


 魔術マギアは、魔力を使い、様々な属性の源素アルケーを操り、あらゆる現象を引き起こす器用な術だ。


 一方、蒼渦術ハイドロギアは、水の源素アルケーに特化した術。魔術マギアほどの汎用性がない分、威力ははるかに上回る。


「その減らず口を聞けなくしてやる!」


 騎士の男が、魔術陣を展開し、雷撃の魔術マギアを放つ。


 ガイウスは動かない。


 雷撃がガイウスを直撃し、激しい閃光を放つ。


「電光の一撃、避けることなどできまい」


「違うな。そんなもの、虫に刺されたようなものということよ」


 ガイウスは、帯電し、髪を逆立てながら、笑みを浮かべる。


「馬鹿な。魔術マギアの防御もなしに無傷だと」


激流槍トレンティス!」


 ガイウスが激流を纏わせた槍を手に突進する。


「そんな派手なだけのこけおどしで!」


 騎士の男も魔術マギアで槍に雷を纏わせ構える。


「遅いわ」


 ガイウスは、蒼渦術ハイドロギアで波を作り出し、その波に乗って、騎士の男の上から襲い掛かる。


「ぐああああ!」


 頭上から激流に飲み込まれた騎士の男は、鎧を砕かれ、そのまま地面に叩きつけられ、意識を失ってしまう。


 もしガイウスが手加減をしていなかったら、男は確実にバラバラになっていただろう。


「手加減は性に合わん。父上に救われたな。盗賊。魔術マギアを使うならリウィアほどまで練り上げることだ」


 ガイウスは、次の敵を探す。

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