第26話 問題山積
「リウィア、ベリサリウス、クレウサ、ルピア、ウル、アモル、エル、ガイウス、サラシア、ファビウス。正直に言ってしまえば、みんなは、イオの治療のために作られた。だから、その本来の目的はもう達成している。だから、これからは、俺のことは気にせず、好きに生きたっていい。やりたいことがあれば、全力で支援する」
自分の都合で生命と呼ぶに等しいものを生み出した。これは本来の自然の営みを捻じ曲げた行いだ。生命への冒とくがどうとか哲学的な問題は、バテルには、よくわからない。だが、生み出したことに対して責任を持つつもりではいる。
「そのうえで俺に力を貸してくれないか。わがままは承知の上だ。俺にはみんなのマギアマキナの力が必要だ」
バテルが頭を深々と下げる。
「頭をお上げください。バテル様」
ベリサリウスが穏やかにいう。
「私たちはあなたに作っていただきました。我らの父であり、創造主、神でもある。もっと堂々とするべきです」
マギアマキナたちは黙って、ベリサリウスの話を聞いている。
「バテル様に仕え、その下で共に働けること、我らマギアマキナにとって望外の喜び。私の力でよければ、粉骨砕身、お仕えします」
ベリサリウスは、その拳を握り、胸に当て、跪く。ほかのマギアマキナたちも一歩前に出て、ベリサリウスに続く。帝国式の最上級敬礼である。
「ま、まだ生まれたばっかりでやりたいことなんてわからないし。僕たちは子供、おとーさんにはまだしっかりお世話してもらわないとね」
感動的な空気を破壊するかのようにエルがおどけてみせる。
「エル、貴様というやつは空気が読めんのか」
まじめなウルは声を荒げる。
「そう怒るなよ。エルの言うとおりだ」
サラシアがたしなめる。
「私は家族と一緒に暮らせればそれで幸せです~」
アモルがゆったりという。
卓越な能力を持ったマギアマキナとはいえ、まだ生まれたて。
その力に見合った夢や野望がまだあるわけではないし、必ずしも持つ必要はない。穏やかな暮らしを望んだってかまわない。
「巣立ちにはまだまだ早すぎますわ。お父様にもっと甘えてからでないと」
とクレウサがバテルの腕に抱きつき、
「ママにもね」
ルピアはイオを抱きしめる。
「……ここで学ぶべきことも多い」
ファビウスがぼそりとつぶやき、
「はい、もっといっぱい勉強します」
リウィアは何度もうなずく。
「このガイウス、一生父上についていきますぞ」
ガイウスはなぜか号泣している。
「ありがとう、みんな。このディエルナでやらなければならない事は山積みだ。ベリサリウス、ディエルナ領の問題はわかるか?」
バテルが尋ねる。
「ひとつには、農業の不振による食糧不足。もうひとつは、治安部隊の不在から来る盗賊の増加、それによる流通の停滞。そして度重なる出兵による財政難。その大きな原因は労働力不足でしょう。農業にも治安維持にも人手が要ります」
「その通りだ」
ベリサリウスがよどみなく答え、バテルが満足そうにうなずく。
戦争には人も金もかかる。国境までの遠征費用だけで、目を覆いたくなるようだし、出兵のたびに働き盛りの男女が取られてしまう。
攻撃に適した
当然、労働力が足りず、農業生産や治安の維持に深刻な問題が出ている。戦争で金は出ていくばかりだ。かといって、国境線を防備しないわけにもいかない。
「国境線の警備は、帝国全体の問題しょ? 中央の貴族は助けてくれないわけ?」
ルピアが憤慨する。
「帝都は辺境のことなんて知らぬ存ぜぬさ。連中は、帝都の平穏が当然のものだと思ってる。国境の守りが無くなれば今度は自分たちが危ないなんて考えもしない。助けちゃくれない。本当に腹が立つ話だがな」
バテルだって腹立たしいに決まっている。
「本来なら、ダルキア貴族が一丸となって、もっと中央の政治に働きかけるべきだろう。だが、ダルキア属州の総督は、その中央から来たお偉いさん。さらに、俺たち田舎者は、帝都や他の地域がどうなっているのかすら、ほとんどわからないと来たもんだ。今のままじゃどうしようもない」
世情に疎く、国境線で異民族と戦う以外手が打てないのも問題だ。
「帝都や帝国全土に情報網を作る必要がありそうですね」
リウィアが言う。情報さえ集まれば、もっと効果的な策が打てる。
「まさに、わたくしたち、マギアマキナの出番というわけですわね」
クレウサが言う。
「もっともっとマギアマキナが必要ですね~」
アモルの言うように何をするにも人手がいる。労働力不足の解決にはマギアマキナの増員が必要不可欠だ。
「金もかかるし、みだりに作っていいものではない。だけど、本音を言えば、喉から手が出るほど欲しい」
人間は、すぐに増えないし、外から連れて来るにも手間がかかる。バテルに忠実で能力の高いマギアマキナを作ってしまった方が早い。
シンセンはみだりに作るなと怒るだろうが、バテルからすれば安寧のためなりふり構っていられないところがある。
「我々で異民族とやらを粉砕してしまえばいい!」
ガイウスが大声をあげる。短絡的だが、原因を取り除いてしまうという最もシンプルな解決策だ。
「馬鹿言え。異民族を倒すには軍団規模のマギアマキナがいる。諜報網だってそうだ。先立つものは金。もっと金を稼がねえとな」
サラシアの分析は的確だ。マギアマキナとて万能ではない。製作するのにはもちろんのこと維持にも少なからずコストがかかる。帝国全土の諜報網の構築や軍団の組織に必要なマギアマキナの数を考えると相当量の金が要る。
「……売り物なら、いくらでも作れる」
ファビウスほどの腕前の職人なら帝国全土に売りさばける商品を作るのも難しくはない。
「……と、とにかく精進するということだな」
残念ながら、ウルだけは、あまりよくわかっていなようだ。
「まずやるべきことは、治安の回復と維持、食糧問題の解決。それからマギアマキナ大量生産のための資金確保」
「我らマギアマキナにお任せください」
ベリサリウスが礼をとる。
「ああ、ディエルナのため、みんなの力を貸して欲しい」
「バテル様の御命令とあれば、なんなりと」
マギアマキナ一同ひざまずく。
バテルは、本格的に
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