第25話 家臣


 イオのためとはいえ、領主代行としての役目を無視して錬金術アルケミアに没頭しすぎていたことを反省した。


(父上は、俺に何かやってほしいなんて毛頭考えていないだろうが、せっかく学んだ錬金術だ。ディエルナやみんなのために使おう。マギアマキナたちにも仕事をしてもらった方がいい)


 バテルは、さっそくマギアマキナたちを屋敷に連れて来た。


「この者たちは、新たに加わった俺の家臣だ」


 バテルが、フォルカスを代表とする文官家臣たちや老臣ベルトラをはじめとする残留組の武闘派家臣たちにマギアマキナたちを紹介する。


 マギアマキナたちも続けてあいさつする。マギアマキナは全部で九名。エルだけがこの場にいない。


 眉目秀麗なマギアマキナに家臣たちは息をのむ。


 だが、古参の家臣としては、ただ呑まれるわけにはいかない。


「なりませぬぞ。バテル様。かような怪しい奴らを家臣などと」


 とベルトラが言うとイオが凄まじいまでの眼光を放つ。


 今まで感じたことのないイオの圧迫感に老臣たちはたじろぐが、ベルトラは下がらない。


「いくら領主代行とはいえ、素性も定かではない得体の知れぬものたちをクラディウス家の家臣に加えるなどもってのほか」


 ベルトラの言うことはもっともである。クラディウス家の家臣たちは、帝国勃興期、戦いの過程で、その家臣になったものが多い。かつては敵対していた者たちも少なくない。ただそれは争いごととはいえ、それなりの過程があってのもの。いきなり家臣団に加えるといわれても信用できるはずもない。


「一体、どこからこのような者たちを……。見たところ、子供もおるようですが」


 ベルトラは、リウィアとサラシアをちらりと見る。


 確かに見た目には子供にしか見えない。


「だから外で修業している間に知り合ったんだ。他種族の血も混ざっているんだ。見た目通りの年齢じゃない」


 マギアマキナたちは、あくまで流浪人をスカウトしてきたということにしている。


(マギアマキナです。私が作りましたというわけにもいかないしな)


 バテルとしては、錬金術アルケミアの力を大いに宣伝したいところだが、これだけの技術だ。信頼のおける家臣たちとはいえども、下手に口外して、外に広まれば、面倒ごとを呼び込んでしまうかもしれない。


「素性は多少怪しくても、文武に優れた実力者ばかりだ。必ず役に立つ」


「それでも、当家にこれ以上家臣を養う余裕はありませんぞ」


「誰がクラディウス家の家臣にすると言った? 俺の家臣だ。扶持も俺が出す」


「我ら一同、生涯、バテル様にお仕えする所存です」


 マギアマキナたちが、一斉にバテルの前にひざまずく。


「なんと……」


 ベルトラは、不覚にも感動してしまう。


 まだ年若いバテルが、これほどの忠誠を受けている。


 自分の言うことなどまるで聞いてくれず、クラディウス家の落ちこぼれと言われていたあのバテルが、だ。


「ご立派になられた」


 いや、しかしとベルトラは首を振る。


「これだけの一大事、やはりお屋形様に指示を仰がねば」


「よいではありませんか」


 フォルカスが声をあげる。


 彼は、数年前からクラディウス家に仕える新参家臣で、バテルの父、ディエルナ伯が、領内の行政一切を任せている文官である。軍事費の負担が大きいクラディウス家の財政を立て直した辣腕の持ち主だ。文官家臣たちからの支持もある。

 

 と言っても本人は無欲な方で、派閥政治などはせず日々業務を淡々とこなしているだけだ。それでも、根っからの合理主義者で、冷たい印象があり、無欲さが逆に不気味に見えることもあって武闘派の老臣たちからは、嫌われている。


「バテル様は、領主代行。そう任ぜられたのはお屋形様です。そのバテル様が、この方たちを自分の配下に加えるとおしゃっている。しかも扶持はバテル様が賄うと。クラディウス家が蔵を空にすることもありません。我らが口をはさむ余地はないでしょう」


「金がどうこうという問題ではなかろう」


 それに、とフォルカスは遮るように続ける。


「ディエルナは人手不足。猫の手も借りたいというのが本音です」


 それ以上、反対が出ることはなかった。


 武闘派の老臣たちは、新参者めと悪態をつきながらも、しぶしぶ受け入れて去っていった。


「助かったよ。フォルカス。ありがとな」


「いえ、バテル様。差し出がましいこと申しました。お許しください。頼もしい方々が増えて、うれしく思います。それでは、私は仕事に戻ります」


 フォルカスは、にこりとも笑って一礼し、去った。


「ベルトラたちももう少し、フォルカスと仲良くやってくれれば、もっとうまくいくとも思うんだけどな」


「そうですか。私は、ちょっと苦手です」


 イオは首を振る。


「そうそう。これから僕に監視させようっていうのによく言うよ」


 エルが、どこからともなく現れる。


「そう言うなよ。エル。レウス兄上ほどの人が感情論だけで疑っているとも思えなくてな。頼むよ」


 エルの役目は、フォルカスの監視。マギアマキナたちの中で、唯一新しい家臣として紹介されなかったのは、スパイをしてもらうためだ。


「ま、退屈だったし、いいけどさ」


 と言うとエルは、霧のように消えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る