第3章 領地改革編

第24話 賢い妹


 夜、バテルは、妹のディアナに会いに来ていた。


「……それでバテル様が、どんどん騎士のゴーレムを作り出して……」


 イオが、ディアナに自分の魔力回路の不調が治ったことや修行のことを話す。もちろんあまりに危険だった人体再錬成については伏せている。


「これでイオもバテルお兄さまの錬金術アルケミアのすごさがわかったでしょ」


 ディアナは、誇らしげに鼻を高くする。

 思えば、バテルの錬金術アルケミア唯一の理解者だった。


「はい、それはもう」


「私も、そのお師匠様やマギアマキナさんに会ってみたいな。最近は、バテルお兄さまもあんまり来てくれなっちゃったし……」


 ディアナが、少し不満そうに頬を膨らませる。


「ごめんな、ディアナ。最近は、ちょっと忙しくて」


「ううん。バテルお兄さま。お兄様は、領主代行としてのお勤めがあるもん。わがまま言って、ごめんね」


 ディアナは、素直に謝る。ちょっと賢すぎるほどにいい子だ。


 実は、領主代行としての職務を放り出して、マギアマキナの研究に没頭していたのだから嘘をついているようで心が痛い。


「ディアナは、とってもいい子だ。もっとわがままを言ってもいいんだぞ。そうだ。シンセン師匠やマギアマキナたちを今度、屋敷に招待するよ」


「本当? 絶対に絶対だよ。約束」


「ああ、約束だ」


「じゃあ、約束のおまじない」


 ディアナが細い小指を差し出す。バテルも小指を出し、組ませる。バテルが、教えた前世のおまじないだ。


「「指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲ます。指きった」」


 ディアナは、嬉しそうに小指を眺めている。


「あ~あ、私もバテルお兄さまやイオと一緒に修行ができたらな~」


 顔に枕を押し付けて、ディアナが、ぼやく。


「大丈夫。俺が必ずどうにかするから。そしたら一緒にみっちり修行だぞ」


「そうだね」


 ディアナは明るい笑顔と共に言った。


「今日は、もう休むな。おやすみ。ディアナ」


 バテルが、優しくディアナの頭をなでる。


「おやすみなさい。バテルお兄さま。イオ」


 ディアナは、元気よく手を振った。


「言わなかったんだ」


 廊下に出るとバテルは奥歯をかみしめるようにして言った。


「自分の体のことだって俺と指きりして約束できたはずなのに」


 ディアナは、まだ幼いが賢い子だ。自分の体が、どうにもならないと理解していて、無理だとわかっているからバテルが自分を気遣ってくれているのだと体を治す約束を取りつけるようなことはしなかった。


 バテルが気遣えば、わざとらしく明るく振舞って逆にバテルを気遣ってしまう。


「もっとわがままを言ってくれていいのに……」


 ディアナが利口に我慢を覚えてしまっていることが、バテルには耐え難い。


「ディアナ様も人体再錬成で治すことはできないのですか?」


 病を治したイオは、元気にやっている。むしろ元気が有り余っているせいで、修行では、疲れ知らずのマギアマキナたちが音を上げる始末だ。


「いや、人体錬成はしない。あれはリスクが大きすぎる。急を要する場合に使う最終手段だ。他に手立てがある。それに仮説が正しければ、ディアナは、病気というわけではないと思うんだ」


「病気ではない?」


 虚弱体質というのは確かに病ではないが、とイオは、思ったが、バテルの言う意味はもっと違う気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る