第23話 マギアマキナの母


「バテル。何をやっている。錬成遅いぞ。おぬしの腕はそんなものか? おぬしの魔力量なら無限というのも嘘ではなかろう。もっと効率よく錬成陣を運用し、同時に錬成できる数を増やせ、ゴーレムももっと強くなるように錬成せよ」


 シンセンの怒号が飛ぶ。


「わかってますけど! やってやる!」


(すでに高速連続錬成だけで、限界ギリギリなのに、錬成陣の効率化とゴーレム改良を同時にしろなんて、相変わらず無茶が過ぎる)


 だが、バテルの超人的魔力回路の処理能力と並外れた魔力量なら、数百体のゴーレムを錬成したところで、平気なはずだ。


 それができないということは、バテルがまだ自分自身の力を使いこなせていないということに、ほかならない。


 バテルは、なんとか錬成陣を改良して魔力消費量を削減し、騎士ゴーレムの戦闘能力も向上させていく。だんだんとイオを押し始めた。


「イオ。恐れるな。魔力を使え。今のおぬしなら身体強化など呼吸のようにできるはずじゃ。腹に力を入れろ」


「はい」


 イオは、自分の体の中を循環している魔力に意識を集中させる。


(大丈夫。私は、もう魔力を使える。この日のために訓練を積み重ねてきた。バテル様にもらったこの体を信じる!)


 イオは、内なる魔力の流れをつかんだ。まるで生まれたときから魔力を自在に操っていたかのよう。膨大な魔力はイオの支配下となり意のままだ。


(よし。意外と簡単!)


 魔力を薄く纏うことで、身体能力が格段に引き上げられた。


「やみくもに拳を突き出しているだけではダメじゃ。呼吸を整えろ。常に敵の位置を五感で感じ取り、最小限の動きで、急所をつけ。敵の魔力の流れを見極めるのじゃ」


「すぅーー。行きます!」


 イオは、呼吸を整えると攻勢に転じる。


「見える。見えます。そこ!」


 そして、鮮やかな拳運びで、ゴーレムの心臓部である核をピンポイントに貫いていく。

 イオの卓越した空間把握能力はまるで全身に、目や耳がついているかのようである。この短時間で、研ぎ澄まされた五感は、第六感にまで到達し、視覚や聴覚といった情報を超えた流れのようなものを把握できるまでになっている。


「流石だな。イオ。俺が苦労して覚えたもんも一瞬でできちまう。体のスペックだけじゃない。天性のセンス。これが本物の才能って奴か」


 手を抜こうとしていたのは馬鹿だったとバテルは、感心する。


「こっちにもプライドはある。負けるもんか。錬成っ!」


 バテルは、最後の力を振り絞り、ゴーレムを大量に錬成する。


「どうだ。総勢百体。これまでで最も洗練された最強のゴーレム。おっと核を狙おうなんて考えるなよ。ゴーレムの核に触れたらドカンだ。ふはははは」


 容赦のなくなったバテルは、なりふり構わない。


「あれじゃ、パパ、悪者じゃん」


「小悪党のような笑い方ですわ」


 観戦していたルピアとクレウサが呆れる。


「お父様。ちょっと怖いです」


 リウィアは、おびえる。


「好きに言うがいいさ。どんな勝ちでも勝ちは勝ちだ!」


 バテルは、かなりの負けず嫌いだ。


 魔力を使い果たしたバテルは、その場に膝をつく。


 そして残されたゴーレムたちを直接操る。


 呼吸を整え、神経を研ぎ澄ましたイオは、体勢を立て直し、ゴーレムたちを次々に粉砕していく。


 破壊されたゴーレムの核は爆裂し、イオにダメージを与えていく。


(数が多すぎるし、動きも早い、爆発も厄介。今の私じゃ、全部避けきるのは無理。それなら)


 イオの体にゴーレムの攻撃が当たる。


 だが、見た目ほどのダメージはない。


(攻撃をあえて受ける。代わりにダメージは最小限に抑える)


 イオは、まるでゴーレムという海の中を華麗に泳いでいるようだ。


「戦いとは呼吸よ。力を押し付けるのではなく流れを読む。イオ。やはり天才か」


 シンセンは満足げにうなずく。


 ゴーレムたちが次々撃破されていく。


「ちくしょう、俺のゴーレムが……」


 バテルは、どんどん余裕を失う。

 残り半分。

 残り二十。

 残り五。


「これで終わりです!」


 イオの渾身の一撃が、残ったゴーレムを粉砕する。


 残りゼロ。


 勝ったのはイオだ。


「ふううう」


 イオは、呼吸を整え、魔力を流す。するとみるみるうちに体の傷が癒えていく。


「私の勝ちですね。バテル様」


 イオが勝ち誇るように笑みを浮かべる。


「俺の負けだ。完敗だ」


 バテルは、負けたことを悔しがりながらも


「あはは、イオには、敵わないな。最高だ」


 イオの体が、想定以上の力を発揮していることに満足した。


「回復術まで自力で体得したか」


 滅多なことでは驚かないシンセンが、感嘆する。


「まだまだいけそうじゃな。さて次は」


 シンセンが、思案しているとマギアマキナたちが出てくる。


「そろそろ私たちの出番じゃない?」


 ルピアは、戦輪を人差し指でくるくると回している。


「私も一手、手合わせ願いたい」


 ウルも、長剣に手をかけ、高ぶっている。


「不甲斐ないな。親父」


 サラシアは、身の丈に合わない大太刀を担いでいる。


 ガイウスは、巨大な三又の槍を唸らせ、微笑を浮かべるクレウサの手には鉄床のようなハンマーが握られている。


「ならば、組手じゃ。マギアマキナたちにも良い修行になろう」


「正気ですか。さっき全力で俺と戦ったのに」


「本人は、やる気のようじゃぞ」


 イオは、鼻息を荒くし、戦いたくてうずうずしているようだ。


 イオとマギアマキナたちが一人ずつ組手をすることになった。


 マギアマキナは人間を模した存在ではあるが、その能力は人間のそれをはるかに凌駕する。究極の肉体を手に入れたイオにすら迫るほどの潜在能力を秘めているはずだ。イオが難なく倒した量産型の騎士ゴーレムとは比べ物にならない戦闘能力を持つ。


 イオは、まだ新しい体に慣れていない。シンセンの下で修業を積んでいるマギアマキナ相手に連戦すれば、すぐに負けてしまうだろう。


 と魔力を使い果たし、ぐったりと座り込んでいたバテルは、イオと最初の相手、ルピアの組手を見て思っていたが、数時間後、マギアマキナたちは全員、地に伏し、イオを自分たちの母としたことに満足したのであった。

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