第18話 人体錬成
「みんな、頼む」
「「魔力回路接続、練成陣に同調」」
ここまで複雑な錬成陣になるとバテル一人では、到底、御しきれない。十体のマギアマキナの助けを借りて、ようやく制御できる。
そのためにバテルは、マギアマキナを作った。
本来、複数人で、魔術陣や練成陣を同時に運用することは極めて困難である。人には固有の魔力の波長があり、それを常に合致させることは難しく、より複雑で高度な練成陣であるとほぼ不可能に近い。
マギアマキナならたとえ何百体集まろうと寸分の狂い無く正確に錬成陣を運用できる。人間に似せて作られ、多種多様な形で生まれてくるマギアマキナだが、そこは
「錬成陣起動!」
錬成陣が、バテルたちから魔力をあるだけ吸い上げる。バテルが持ってきた金貨もすべて溶けだして、エーテルとなって錬成陣に注がれていく。
一つ一つの錬成陣が、リズムに合わせて躍動し、イオの体に溜まった淀んだ魔力を吸い上げていく。
「分解!」
魔力を完全に解放したイオの肉体を一度微粒子状に分解する。
本来であれば、
しかし、事前に魂と体を切り離すことで、人体から
一度分解した肉体を理想的な肉体へと再構成する技こそ、バテル
その難易度は、ある程度自由に任せるマギアマキナの錬成とは、桁が違う。
「想像しろ! お前の中のイオの姿を!」
シンセンが叫ぶ。
(イオは、自分より他人のことを思える優しい子だ。猛々しい牛の獣人でもある。骨は鋼鉄のように固く頑強で、筋肉はしなやかで力強い。五感に優れ、病気や毒に侵される心配もない。そして、大容量の魔力を円滑に処理できる完璧な魔力回路。二度とこんな目にあうことがないように。誰よりも強い完璧で理想的な究極の肉体を!)
バテルは、想起する。
今までイオと暮らしてきた思い出を。
バテルは、想像する。
獣人として、いや、生物として非の打ちどころのない完成された肉体、決してこれまでのように苦しむことはない究極の生命体を。
「
光の粒が集まり、イオの新しい肉体を形作っていく。
「すごい……」
バテルは息をのみ、マギアマキナたちも再錬成されていくイオの体を仰ぎ見る。
その光景は、まるで天界に住まう女神が現世に顕現するかのような神々しさである。
「よくやったぞ。バテルよ。完璧だ」
錬成陣が解け、再構築されたイオの肉体が宙に浮かんでいる。
見た目は、さっきまでと全く変わりない。
だが、不完全だった魔力回路は完ぺきに再設計されている。
これならば、魔力を放出できずにため込んでしまうどころか、常人をはるかに超える量の魔力を制御・放出できるだろう。
それに加えて、バテルは、イオが二度と苦しまないようにあらゆる部分を強化した。
「まだ、これからです」
バテルは、まだ気を抜かない。
錬成されたイオの体は、まだ魂のない空っぽの器だ。
「うむ、今度はイオの番じゃ。魂を肉体に戻す」
シンセンは、慎重に新しく出来上がった肉体にイオの魂を戻す。
魂は、肉体に溶けていく。
そして、イオの肉体を維持していた術を解く。
イオの肉体の呼吸と心臓が止まる。
「頼む。イオ。戻ってきてくれ」
ドクン。
力強い大きな心臓の鼓動が響いた。
「ん、バテル様……私は……」
イオが、意識を取り戻す。
「なんだか、すごく寒い、熱いです」
「大丈夫、心配ない。うまくいってる。落ち着け、安心するんだ」
バテルは、イオを抱きしめて安心させる。
「イオよ。耐えよ。新しい体に魂をなじませる必要がある。魔力を支配し、体に流すのじゃ」
拒絶反応。
作り替えられたイオの肉体を魂はまだ拒んでいる。
「くっ! はあんんんんんっ! ああああああああ!」
イオが絶叫する。
全身の肉が裂け、骨が砕かれ、内臓がかき混ぜられるような激しい痛みと内側から灼熱の業火に炙られるような熱さに襲われるようだ。
「もう少しじゃ。気をしっかり持て、魂を離すなよ」
「イオ。頑張れ。大丈夫だ。落ち着いて魔力を流すんだ。体を支配しろ」
「強い魂を持った娘じゃ。この程度でくたばったりはせぬ」
マギアマキナたちも祈る。神を知らぬ彼ら彼女らでも、あとは祈るしかできない。
「んんんんんんっ! はあああんんん!」
次の瞬間、絶叫とともにイオは、激しい閃光に包まれ、穏やかな表情になった。
呼吸と脈拍、魔力の波動も安定している。
限界を迎えていたバテルとシンセンをかろうじてつなぎとめていた緊張の糸がわずかに緩み、その場に二人とも崩れ落ちてしまう。
「イ、イオは……助かったのか」
かすんだ目を懸命に見開き、バテルは、イオの姿を確認する。
イオは、横たわったまま微動だにしないが、かすかに寝息を立てている。
「案ずるな。よい魔力の流れを感じる。どうやら疲れて眠っているだけのようじゃな」
シンセンは、イオの安らかな寝顔を確認するとやり切った満足げな表情を浮かべた。
「そっか。よかった」
バテルは、そのまま気絶するように眠った。
マギアマキナたちも限界を超えた錬成陣の運用に魔力回路がオーバーヒートし、床に倒れている。
「バテル様と我々なら当然の結果ですね」
ベリサリウスがくいっとメガネをあげる。
「床に突っ伏しって言っても恰好がつきませんわね」
笑うクレウサも倒れたまま体を微動だにしない。
「初めて疲れるという感覚がわかりました」
リウィアも疲労困憊。杖を手に、床に座り、壁に寄りかかったまま眠ってしまった。
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