第15話 新しい家族
バテルは、体調の悪そうなイオを見てすぐに屋敷を飛び出し、龍の森に向かった。
「師匠……」
よほど急いでいたのかバテルは、息も絶え絶えである。
「どうした。血相かいて」
シンセンが言う。
「大丈夫ですか。お父さま」
お気に入りのローブを着たリウィアも研究所から顔を出す。リウィアは、バテルに作られて以来、研究所を生活できるように整え、暮らしている。
「リウィア、みんないるか? 急いで、マギアマキナたちを集めてくれ」
マギアマキナ第一号、リウィアの誕生から、バテルは多くのマギアマキナを生み出した。
そのマギアマキナたちはリウィアと同様にこの研究所で暮らしている。
「は、はい!」
リウィアは、うなずいて、走っていく。小さな歩幅だが、マギアマキナの身体能力は人間のはるか上。すぐに研究所の奥に消える。
「師匠、予想よりも早かったかもしれません」
「件の娘。もしや、あの可愛いお客人のことか」
「は? お客人?」
「はぁ。おぬしは鈍いのう。まだまだ修行が足りん。あれだけ気配をまき散らしていればすぐに気づくじゃろうて。ほれ、大丈夫じゃ。取って食ったりはせん」
シンセンが、木陰にそう呼びかけ、手招きすると少女が顔を出した。
バテルは、必死に走ってきたので、イオにつけられていることにまったく気がついていなかったのだ。
「バテル様……」
「イオじゃないか。どうしてここに。休んでいるよう言っただろう!」
バテルは、思わず大きな声を出す。
「っ————」
イオが、びくっと小さく肩を震わす。
まさか、イオが自分に嘘をついてまでつけてくるとは思わなかった。
それに、さっきよりも体調が悪そうだ。全速力で走ってきたので、あの状態でついてきたイオは、相当辛かったに違いない。
「たわけ。そのように大きな声を出すでないわ」
シンセンは、バテルの頭を小突いた。
「いて。でも、俺は、イオを心配して」
「わかっておる。しかし、おぬし、さては、ここでのことをあの娘に話しておらんかったな。健気にも心配してきたというに。まったくおぬしというやつは女心というものが分かっておらん」
シンセンは、大きくため息をつき、やれやれと首を振った。
「そうか、イオも俺を心配して」
それが今なら痛いほどわかる。
「俺が嘘をついたせいで。もっと早く、正直に話していれば……」
家では、あまり
それにイオにも余計な心配はさせられない。そんな浅はかな考えで、イオに、いらぬ心労かけていたことをバテルは、激しく後悔する。
「ほれ、迎えにいってやれ」
バテルは、シンセンに背中を押される。
「イオ。すまない。俺が悪かった。全部話す。だから許してくれ」
「バテル様……ごめん……なさい……。私、バテル様が心配で……」
イオは、涙を流す。
「お父さま、みんなを呼んできました」
リウィアが、ほかのマギアマキナたちを伴ってくる。
「お父さま? バテル様に子供……?」
イオは、混乱し、さらに熱が上がる。
「いや、ああ、まず落ち着いて話をきいてくれ。この子は違うんだ」
「ぇ……私は、お父さまの子ではないのですか……」
リウィアまで涙をにじませる。
「それも違うぞ。リウィア。そうじゃないんだけど、そうじゃないんだ。また誤解を生むようなことを……。泣かないでくれ」
「バテル様、ここは私が」
マギアマキナの一人が助け舟を出す。
見た目は青年。メガネをかけ、黒い法服を羽織っている。黒髪黒目で、線が細く、肌が青白い。ちょっと不健康そうだが、美男子である。
「お初にお目にかかります。私は、ベリサリウス。イオ様のことはバテル様からよく聞き及んでおります」
ベリサリウスが折り目正しく挨拶するものだから、イオも冷静になる。
「我々のことを理解していただくためには、
「はあ……」
イオは、次々に新しい情報に触れ、呆けてしまっている。
ベリサリウスが、極めて簡潔に短くバテルのこれまでの経緯を話した。
「つまり、シンセン様以外の方は、バテル様の作ったゴーレム、マギアマキナということですか」
ベリサリウスの明快な解説で、熱っぽいイオの頭でもなんとなく理解できた。
「つまりお父様と呼んでいたのは……」
「はい、私をお作りになったのは、お父さまなので、私のお父さまです」
「ごめんなさい。こんなことになっているなんて想像もつかなくて、さっきはみっともないところを」
とイオが、頭を下げる。
「お、おやめください。お母さま。私に、頭を下げるなんて」
「お母さま? 私が?」
慌てた様子のリウィアに、イオは首をかしげる。
「そうです」
「バテルよ。既成事実というやつか」
シンセンがじろりとにらむ。
「いえ、知らぬ間に、そういうことになっていて」
バテルは、額に大汗をかく。
マギアマキナたちは、主にバテル、シンセン、イオ、ディアナの体のデータをもとに作られた。
父親を創造主であるバテルとすると、その師匠であるシンセンは、祖母、妹のディアナは叔母、そして残ったイオが母親ということになったのだろう。
「悪いな、イオ、すぐに言って聞かせる」
「いえ、そんな、お母さま、お母さまか。ふふ、この子たちは、バテル様と私の子供たち」
イオは、放心状態になっている。
「あら、うれしいですわ。イオ様が、わたくしたちのお母様になってくださって。ねえ、お父様」
ゆらりとバテルの背後から現れた美女がバテルに豊満な体を押しつけるように手を絡ませる。
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