第2章 マギアマキナ誕生編
第9話 禁忌の錬金術
ディエルナ近郊、バテルがいつも修行をしている龍の森に、ある施設ができた。
壁は、コンクリートように滑らかな石でできている。外観は、のっぺりとしていて質素なものだ。
この無機質な建物は、倉庫に見えるが、立派なバテルの研究所だ。
シンセンとの修行を経た今のバテルなら、建物をまるごと錬成するくらい造作もない。
見た目はともかく中の広さは十分で、バテルが、
「わしの住む神聖な森に、こんなものを作りおって、中もガラクタばかりじゃ」
森にぽつねんと現れた無機質な建造物が、この森の自然を愛し、自然とともに暮らしているシンセンには気にくわない。
「師匠にとってはガラクタでも、便利な道具なんです」
バテルが
「こっちは、お湯が簡単に沸かせるし、こっちは、食材を冷やして保存できる。この銃だって、いずれは魔弾に変わる武器になるかも」
「どれも、
そう、いくら家電を再現したところで、この世界では、すでに簡単な
あらゆる術を使いこなすシンセンからすれば、なおさら、バテルの作る道具は無意味なガラクタにすぎない。
「そうやって俺の作品を馬鹿にしていられるのも今の内ですよ。師匠」
「なんじゃ、今日はやけに気張っておるの」
「まあ、見ていてください。今日、この日、
「まーた、どうせガラクタじゃろう」
バテルが、あわただしく準備を始めても、シンセンは、まるで興味がないようであくびばかりしている。
シンセンとの修行を経て、バテルの
「まずは材料の準備です」
バテルは、地面を掘って土を盛る。そこに錬成陣を展開し、錬成すると土はさらさらとした金色の砂になった。
「前に師匠が、龍の森は、龍脈だかレイラインだかいう魔力の大きな流れが交差する場所にあるって言ったでしょう」
あらゆる生物に魔力の巡る魔力回路があるように、星にも似たようなものがある。それが龍脈、レイラインと呼ばれているものだ。龍脈の交差する場所は、魔力のたまり場とされ、良質な素材が採れる。
「そのおかげか、この森の土は魔力たっぷりの良質なものです。それを錬成して錬金的に安定した物質にしたのが、この砂。
「ほう、一度に練成せず、わざわざ
イオが、細い指で黄金色の砂をすくう。
「今回は複雑なものを作るんで、なるべく手間を省いておくんです。まだありますよ」
バテルは、研究所のガラクタの中から、わらの袋をとってくる。
袋の中には、ガラスの粒のようなものが、詰まっている。
「なんじゃ、小さな屑魔石ばっかりじゃな」
魔結晶は、魔力が結晶化したもので、魔道具のバッテリーとして広く使われている。屑魔石と呼ばれるものは、魔結晶の加工過程ででる端材で使い物にはならない。
「龍の森で採れた魔石です。使い物にならないようなものばっかりですけど」
袋の中に入った屑魔結晶をすべて出す。魔結晶の鉱床は、龍脈の交差点によくある。この魔結晶は、そこからバテルが集めてきたものだ。
「屑魔結晶でも、分解、精製、圧縮させれば……」
バテルが、描いた錬成陣の中で、魔結晶の粒が舞い、一つに集まって、球になった。
「ほら」
バテルは、自慢げに師匠に見せる。
「腕をあげたな。バテル。じゃが、魔力量の多いおぬしなら、このようなものに頼る必要もなかろう」
バテルほど魔力量が豊かなら、魔結晶というバッテリーを手間かけて用意せずとも、自分で直接注げばいい話だ。
「これは魔力の補助に使うものじゃありません。すぐにわかります。本番は、これからですよ」
バテルは、再び、錬成陣を展開する。
展開された錬成陣は、一段と複雑な立体積層型で、大まかには三層に分かれている。
「足りない。
バテルは、自分の魔力だけでなく、ポケットから取り出した金貨を惜しみなく
黄金の輝きを放つ錬成陣の上で、魔結晶が回転し、
「錬成!」
バテルが叫ぶと同時に、一層目の錬成陣が起動。魔結晶が
「この球は
さらに、残った
「まさか。バテル、貴様! それは禁忌の術じゃぞ」
「安心してください。師匠。禁忌に触れるようなことはしていません」
バテルは、笑う。
「バテル……」
シンセンは、今のバテルのような目をした人間を何度も目にしてきた。好奇心に取り憑かれてしまったものの目だ。
「ここからは俺の
錬成陣は、バテルの制御を離れて、自動的に動き始める。
「制御不能の陣でそんなことをすれば魔物を生み出すことになる」
「俺の錬成陣は限りなく完ぺきに近い。だからこそ、あえて欠陥ともいうべき不安定さを残したんです。いえ、言い方が悪い。これは不確実性であり可能性だ。どんなゴーレムでも人を超えることはできなかった。ゴーレムが完璧でありすぎたんです。
最初から設計されたゴーレムには進化の余地がない。だから混沌を与えました。混沌としている方が、合理的で完成されたものより、多様で複雑な進化の可能性を秘めている。人間と同じように。そうは思いませんか」
そして、錬成陣が、まるで宇宙が誕生した瞬間のような眩い閃光を放つ。視界は白煙で真っ白に覆われた。
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