第8話 溶岩流を止めろ
「よいか、バテル。溶岩流が溢れ出るのを止めることも重要じゃが、火と土の
「水みたいに潜れっていうんですか」
護符の力である程度は守られても、怖いものは怖い。
あの溶岩に飲み込まれればひとたまりもない。二人ともドロドロに溶かされて、死体も見つからなくなるだろう。
「不貞腐れるな。おぬしは嫌というほど水の
「こんな規模の
バテルは、
「やってみる前から無理などと言うな。魔力ならたんまりあるじゃろ。あとは……そのあれじゃ。気合いじゃ!」
「そんな、投げやりな。結局は根性論じゃないですか」
「時間がない。とにかくやるんじゃ。今回ばかりは、わしも力を貸す。来るぞ!」
シンセンも巨大な錬成陣を展開し、構える。
溶岩流が溢れ出し、山の斜面を駆け下りて、バテルたちに迫る。
「ええい、やけくそだ。錬成陣展開!」
手のひらを迫りくる溶岩流に向け、意識を集中させ、溶岩をせき止めるように巨大な錬成陣を展開する。師匠ほどではないが、今までで一番大きい。
「火を水に、土を水に」
バテルは、必死にイメージする。
滝つぼに落ち、激流に身をゆだね、水と一体になったあの感覚。あの時、確かに水になっていた。
展開した錬成陣に溶岩流が直撃する。
「「錬成!」」
二人が、同時に叫ぶと溶岩流は、錬成陣を抜けた途端、水に変わり、舞い散る。
錬成は成功だ。
溶岩流は、水となっては上へと吹き上がり、後続の溶岩流を冷やして固めていく。
「よし。できた。なんとかなりましたよ。師匠」
「気を緩めるでないぞ。まだまだ来る。これでは魔力供給が間に合わんか」
永き時を生きるシンセンと規格外のバテルでも雄大なる自然の暴力の前には魔力がまるで持たない。
「これが魔力が無くなるっていう感覚か」
「これほどの術を使ってそれだけで済むのか。途方もないやつじゃ。だが、それでも到底魔力が足りぬ。ええい。ちともったいないが、こいつを使うしかないわい」
シンセンは、髪をまとめていた金の髪留めを抜き取ると、錬成陣へと投げ込む。
金の髪飾りは、光の粒子となって溶けて消え、勢いを失っていた錬成陣は、再び輝きをとりもどす。
溶岩流は一瞬ですべて水へと変わり、雨となって山に降り注いだ。
「師匠。今のはなんですか?」
「金じゃよ、金。純度の高い黄金じゃ。あの髪飾りには金がふんだんに使われておる。金は高純度のえいてる体。そのえねるぎい効率は魔力とは段違いじゃ。髪飾り程度でも莫大えねるぎいを生み出し、大規模な
「なるほど、だから髪飾りを投げ入れていたんですね」
「あれは、わしのお気に入りじゃったんじゃがのう。致し方ない。じゃが、これで、火と土をその身に感じることができたじゃろう」
シンセンは、ほどかれた長い髪を指ですく。
「はい。それはもう嫌って程に……」
服が焼け焦げ泥まみれになったバテルは、安心感から脱力し、地面に倒れこんで、意識を手放した。
「ちーとばかし無理をさせすぎてしまったのう。仕方がない。まさか、この年になってわしが今更、子守をすることになるとはの。長生きしてみるものじゃ」
シンセンは、バテルを担いで、森を出るとディエルナの町に入り、誰にも気づかれずに、クラディウス家の屋敷に忍び込んでバテルを部屋のベッドに寝かしつけた。
「人の身であれほどの術を行使するとはたいしたもんじゃな。いずれはわしを超える使い手、最高峰の
シンセンは、バテルの頭をなで、その場を去った。
次の日、バテルは、気がつくと自分のベッドの上にいた。
「師匠がわざわざ俺を運んでくれたのか……」
修行を始めたばかりの時は、あまりに厳しさに鬼めと恨んだこともあったが、弟子思いのいい師匠だ。
今日で修業は、三日目だ。
日数にしてみれば、たいしたことはないが、感覚的にはもう数年も修行を重ねたような充実感と過酷さだった。その分成長も大きいだろう。
「おはようございます。シンセン師匠」
「ん? バテルか。今日はずいぶん元気じゃな」
「大自然に揉まれたおかげか、
バテルは、石を拾って、砂や水、炎と
「ほう。たったの二日で会得したか。えらいぞ。バテル」
シンセンが背伸びをして、バテルの頭をなでる。
見た目には幼い少女に頭をなでられるのは、多少、気恥ずかしかったが、心地よい。
「じゃが、まだまだじゃ。最高の師匠のもとで学ぶのじゃ。世界最高の
シンセンは、ニヤリと笑った。
手を抜く気は一切ないらしい。
「願ったりかなったりですよ。もっと
シンセンは、バテルを小脇に抱えて空を飛ぶ。
その後、バテルは、巨大な嵐の中に投げ込まれ、噴火を食い止めた時と同様、九死に一生を得ることになった。
それからもバテルは、シンセンの下で
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