第5話 探索者講習Ⅱ
お、おわった~~~~。
学科試験が終了して、用紙が回収される。
「みんなお疲れぇ!これから1時間で採点をしてくる。合格点は95点以上だ、今日合格できた奴は明日から実技の指導になる。今日合格できなかった奴は来週また試験を行うから合格したかったら来るように。では!またあとで!」
武本さんはそう言って502の部屋から出て行った。
部屋全体から淀んだ空気を感じる。もちろん私も疲れた……。
後ろからは、どうだった?私はダメかも……や、こんなにめんどくさいのかよ!といった声が聞こえる。
もちろん同感だが、探索者は命がけの仕事だ。それに際してハードルが高くなっても仕方ないだろう。
私は一応、自己採点をしたり、ダンジョン配信者のアーカイブを見て暇をつぶす。
一時間後、扉が開いた。
「お待たせ!今回はなかなかの合格率だったぞ!」
ホワイトボードの前に立った武本さんが笑顔で結果を伝えてくれる。
自己採点の結果はそんなに悪くなかった。最後の問題さえ正解ならほぼ間違いなく合格だろう。
「それじゃあ、名前を呼ぶから呼ばれた奴から取りに来てくれ」
武本さんは順々に名前を呼んでいく。受け取った時、喜んでいる人、落ち込んでいる人、それが最前列の結果全て視界に納まってしまう。これは気まづい。
あ、私の事可愛いって言ってくれた女子大生ぽいっ人!喜んでる!受かったのかな、良かった〜。
と、一連の流れを見ているととうとう私も呼ばれる。
「
「は、はい!」
緊張から上擦った声が出てしまう。
答案用紙を武本さんから目をつぶったまま貰う。
「よく頑張ったな」
苦笑いをしてそうな、そんな声で武本さんは声をかけてくれた。
その声に反応して、私は目を開けてしまう。
そして、答案用紙の点数を確認する。
そこには、98点と書いてあった。
「や、やったー!受かったー!」
「おいおい、明日から実技があるんだからこれで合格じゃないぞ」
しかし、そんなことは知るかとばかりに、にやにやしながら答案用紙を眺めてしまう。
「ほら、まだ返すやつがいるから、さっさと席に戻れ」
そう言われて、ハッとした私は急いで席に戻る。きっとその顔は少し赤くなっていたことだろう。
(み、みんなの前ではしゃぎすぎた〜)
周りからは可愛いという声が聞こえてくる。尚のこと恥ずかしい。
でも、合格したんだなぁ。
何度答案用紙を見ても98点。産まれてこの方、勉強なんて得意じゃないと思っていたけどこれが好きこそ物の上手なれってことなんだろうなと実感する。
明日からの実技も頑張ろう。
そう心に決めるのであった。
――――――――――――――――――――――――
次の日、いつも通りのルーティンの後に今日は動きやすい服装に着替えて探索者協会に向かう。
協会に到着するとダンジョンのゲートの前に武本さん含めて既に何人かの人が集まっている。
あ、女子大生の子だ!あの子も来てる!
と、来ている人を眺めて時間まで待機する。
「よし、時間だ。これからこのダンジョンの説明と協会から簡単な武器を貸し出す。また、お前らにはこれからスキルを手に入れてもらう」
周りの受講生たちがザワザワとする。
スキル。それはダンジョンが出来て世界が1番変わった出来事かもしれない。誰もがダンジョンに足を踏み入れるだけでスキルを手に入れることが出来る。その際、頭に音が鳴るらしい。
このスキルがどれだけ強いかでこれからの探索者人生が決まると言っても過言では無い。
なぜなら、探索者というのは実は儲からない。
語弊があるとするなら、探索者として生活するにはDランクのダンジョンを潜れるようになってからと言われている。
それはそうだ、Eランク以下のダンジョンは世界中に存在する。そんなダンジョンから取れる素材やアイテムをいちいち高値で買い取っていては国の財源が持たないのだ。
もちろん、運が良ければEランク以下でも数百万で売れるようなアイテムは出ることがある。
しかし、それは本当に数少ない数なのだ。むしろ、国として欲しいのはCランク以上のモンスターの素材や格が高いポーションである。
「今からお前らが入るダンジョンはIランクの粘魔族ダンジョンだ。出てくるのはピュアスライム、子供でも殺せる安全なモンスターだ。しかし油断するなよ?顔に張りつけば窒息も差せられるし、時間が掛かるとは言え溶かす能力も持っている。下手すれば大きな火傷を負うことがある。しっかりと座学で学んだことを考えてダンジョンに潜ってくれ」
それを言われれば、ここまで浮かれてた受講生たちも真剣な顔つきになる。当然私も気合を入れ直した。
ダンジョンのゲートに行くと武本さんがゲートを開けてくれる。
「中に入ったら、頭の中で変な音が鳴ると思う。それがスキル習得の合図だ。手に入れてスキルを確認したい場合は頭の中で【ステータス】って考えれば自分のステータスとスキルが確認できる。そいつは一応個人情報になるからあんまり言いふらしたりするなよ。あと、ダンジョンの中は圏外だからそれも忘れるなよ」
そう言い終わると、前に立っていた人から順にダンジョンの中に入っていく。
すぐに私の順番が来た。
「気を付けて入れよ~、こけるんじゃないぞ」
「こけませんよ!」
子ども扱いしてくる武本さんに文句は言いたくなるが、おかげで少し緊張は解けた。
私はダンジョンに足を踏み入れた。
…………えっと?
何歩か、前に進んでみる。
…………おかしい。
そのまま前進する。
前に進み続けると、ほかの受講生たちに合流する。
受講生たちは、一様に虚空を眺めて自分の【ステータス】を見ているのだろう。
さて、ここで問題だ。
わ、私、その、スキル習得の音聞いてないんですけど?
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