第2話 探索者講習会Ⅰ

 探索者協会。それはネット上ではギルドと呼ばれ、国が運営する探索者専用の市役所のようなものだ。

 私が行くのはそこの千葉県柏市、つまり柏支部だ。


 柏市の探索者協会は駅から徒歩1時間だが、柏市に住んでいる私はもう少し歩くことになる。

 なので、家の近くのバス停でバスを待ち、それに乗って探索者協会まで向かう。


 バスに揺られて30分ほど、そこにはどこにでもある高層ビルが建っている。1つ目に着くとしたら、その横に改札のように建てられたゲートがあり、その奥には洞穴のようなものが見えている。あれがダンジョンだ。

 

 探索者協会の見た目はよくある高層ビルだ。中も普通に市役所のように1階には受付のようなものがあり、2階には買取などを行う受付がある。

 私はエレベーターの前に行き上に行くボタンを押した。今日の私が行く場所はこのビルの5階。そこで講習は行われる。


 もちろん、緊張していた。

 しかし、それ以上に、心の高鳴りが抑えられなかった。

 数十秒で少し浮くような重力感を味わうとエレベーターは止まり、扉は開く。

 出た先には看板が立っており、502の部屋で講習、と書いてあった。

 私はその案内に従って502の部屋の前まで行く。部屋の扉は開いており、中は学校の教室と同じくらいの大きさで、そこに長机が何列か置かれていた。部屋の中には大きめのホワイトボードが置かれていた。

 

 中には数名の人がチラホラと席に座り、スマホをいじっている。まだ講義が始まる15分前。これから人がもう少し来るとは思う。

 私は中に入り空いている前側の席に座った。身長が低い私は後ろに座ると前に人が座られるだけで何も見えなくなるのだ。


 ふと、後ろの方が騒がしい。耳を立てて聞いてみると、あの子可愛い、なんで子供が?などそのような声が聞こえる。

 可愛いと言ってくれた大学生っぽい女の人、ありがとう顔は覚えたよ。


 だが、ふと思い詰めてしまう。私はこのようなところに来て年相応の対応を受けたことがあまりない。原因はわかっている。間違いなくこの身長だろう。


 あまり気にしないようにして、講義が始まるのを待っていた。


 その後、何人かの人が部屋に入ってきて、最後に20代後半くらいの体格がいいスーツの人が扉を閉めて入ってくる。


 スーツの男性はホワイトボードの前に立つと私たちが座っている方を向いて立った。

 

「よし、今日からの講習の参加者はこれで全員か? 俺の名前は武本 忍たけもと しのぶだ!よろしく!今日から君たちの講習と実技の担当になる、2週間の付き合いだが気軽に絡んでくれ」


 そう言って、武本という男性は豪快に笑う。


「さて、今日は今日からの1週間行う座学のテキストと簡単なダンジョンの話をする。今から配るからちょっと待ってくれ〜」


 武本さんは前の席から順々に教科書のようなものを置いていく。そして、私の前に来た時手が止まる。


「ん?君は随分若そうだな?一応年齢確認してもいいか?」


「あ、はい」


 そう言って、ポーチから財布を出して、そこから保険証を出す。

 私は保険証を武本さんに渡すと、彼は保険証を受け取り目を通して確認する。


「あぁ、すまなかった。しっかり成人しているな。ちなみにこれは、お姉さんのものだったりとかそういうことは無いよな?」


「正真正銘、穂満 恵、本人です」


「そうか……すまない、それなら今日から2週間よろしくな」


「いえ、慣れているので…………」


 そう、この程度の確認など既に人生単位で慣れている。中学生の時には小学生と間違えられ、高校生になってからも卒業するまでは、初対面で私を高校生として扱ってくれる人など見たことがない。そのせいか、本人確認されることなど数え切れないほど経験してきた。


 そんなことを考えていると、テキストが配り終わったらしい。武本さんはホワイトボードの前に戻ってきている。


 私は渡されたテキスト、2024、をパラパラと開く。


「今配ったテキストがこれから1週間使う教科書のようなものになる。各自、家に持ち帰って確認してみてくれ。今日はこれから2時間を1限として3限行う。これを6日間で36時間。7日目に座学のテストを行い、それの合格者が次の日から実技の指導になる。気を抜かずに話を聞くように」


 武本さんが説明をしたあと、教科書を開く。


「それじゃあ今日は、5ページのダンジョンの説明からやっていく。メモするなり、線を引くなり、その辺は自由にしてくれ。質問はこちらから時間をとるからその時に挙手して聞くように」


 こうして、私の探索者講習はスタートの火蓋を切った。いや、私こういうの苦手だけど、大丈夫かな?

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