第5話 女装は協力者がいると捗る
今までは一人で楽しんでいた週末の女装だったが、課長と出会ってさらに楽しさが増した。
一緒に買い物しながら、化粧品の事や服のコーデのことを教えてもらえるのが嬉しい。仕事と同様、メイクや女性らしい仕草の細かいところまで課長に指摘されることもあるが、指摘され改善するたびに少しずつ女性に近づいていく気がする。
今日も課長と買い物のため、ウキウキしながら待ち合わせのデパートへと向かった。
「今週、オープンです。割引クーポンも入っています」
デパートに向かう途中、ティッシュを配っている女性からティッシュを受け取った。裏にはオープンしたてのエステサロンの広告が入っていた。明らかに女性向けの物だ。
振り返ってティッシュを配っている女性を見ると、男性には配らず広告のターゲットとなる女性にのみティッシュを配っている。パッと見とはいえ、女性と思われたことに心が弾んだ。
◇ ◇ ◇
「セール実施中」「50%OFF」
バーゲンが始まったこともあり、デパートの中には購買意欲を誘うチラシがあちらこちらに貼ってある。少ないながらもボーナスも今週入ったこともあり、買い物意欲は満ちている。
デパート内を二人で見て回っている途中、課長が足を止めた。
「このスカートかわいい!」
課長が嬉しそうにスカートを手に取っている。課長も同じようにテンションが上がっているようだ。
「これ買おうよ。色違いで。私が紺で、あさひはピンク」
「え~なんで、私がピンク?普通、佐紀さんがピンクじゃない?」
「30過ぎるとピンクは辛いの。あさひ、若いんだからピンクにしなよ」
男の自分にピンクを勧めてくる課長の顔が、いたずらした子供のようでかわいい。女装して会っているとき課長は、会社での「朝日君」ではなく「あさひ」と呼んでくれる。
それで課長のことを「佐紀」って下の名前で呼んでも良いといわれたが、課長を下の名前で呼び捨てにするのは抵抗があるので、「佐紀さん」と呼んでいる。
口調も会社の時の事務的な感じから、友達同士のような感じで話してくるので、女の子として見てもらえているのが伝わって嬉しい。
結局、課長と色違いのピンクのスカートを購入して、そのほかの店も回って買い物を重ねるうちにバーゲンの戦果品が重くなってきた。歩き疲れたこともあり、休憩しようとカフェに入ることにした。
「ボーナス入ると、気がゆるみますね」
「そうね。いっぱい買っちゃった。ところで、あさひ、今日の夜って何か用事ある?」
「何もないですけど」
「このあと、ウチにこない?ちょっと前にワインもらったんだけど、一人で一本開けるのは無理だから、ずっと置いたままなの。一緒に飲んでくれない?」
女性の部屋に行くなんて初めての経験に、鼓動が速くなる。一緒にご飯食べるだけだよな、それ以上は期待すると裏切られたときのショックが大きい。
「念のため確認しますけど、こんな格好しているけど、一応男ですよ」
「知ってるよ。でも、あさひはそんな人じゃないでしょ」
確かにいわゆる草食系男子で自分から手を出すことはないと言え、女性にそう言われるのも男として情けなく感じる。いや、この場合は逆に女友達としてみられているから、嬉しく思っていいのか?
◇ ◇ ◇
「昨日の残り物で悪いけど、ごめんね」
課長は申し訳なさそうにビーフシチューの入ったお皿をテーブルに置いた。テーブルには、デパ地下でかってきたローストビーフを使ったサラダも置かれている。
「グラタン焼けるのにもう少し時間かかるから、先に乾杯しちゃおうか?お腹すいたでしょ」
課長がワイングラスに赤ワインを注いでくれ、グラスを重ねて乾杯した。
「ビーフシチュー美味しいです。佐紀さん、料理上手ですね」
「そう、お口にあってみたいでよかった。グラタンもできたみたいだから、持ってくるね」
アツアツのグラタンが運ばれてきた。下ごしらえはしてあったと言っていたが、帰ってきて30分も経っていないのに、御馳走が並んでいる。仕事と同様、課長は家事も手際が良いみたいだ。
女性の部屋に初めて入ったこともあり最初のうちは緊張していたが、美味しい食事とワインを頂くうちに次第にその緊張も解けてきて会話も弾んだ。
お腹も満腹になったところで、ちょうどワインも空になった。
「先に片づけてから、コーヒー淹れるから、ソファに座ってテレビでも見てて」
「片付け手伝いますよ」
「いいよ一人でやった方が楽だし、私が誘ったんだから、あさひは今日はお客様。座って待ってて、すぐだから」
お皿を洗う手を留めずに、課長は言った。課長が手際よく片付けていく様子をみみると、自分が手伝っても逆に迷惑だろう。素直にソファに座って待っておくことにした。
「コーヒー淹れたよ」
片付けを終えた課長が、コーヒーの入ったマグカップ二つを持ってきた。カップをソファ近くのローテブルに置くと、ソファに座った。
ソファに二人並んで座り、何とはなしにテレビを見ながらコーヒーを飲んだ。
「そろそろ、帰りますね」
コーヒーも飲み終えたところで、気づけばかなり時間が過ぎていた。立ち上がろうとしたとき、課長が抱きついてきてソファの上に横倒しになった。
「ちょっと、課長」
「あさひはそんな人じゃなくても、私はそんな人よ」
課長が近づいてきて、唇が重なった。初めてのキスはコーヒーの香りがしたと感じる間もなく、課長の舌で舐めまわされた。それと同時に体を撫でられ、気持ちいい刺激が体中に伝わってきた。
抵抗しないことを同意ととった課長が、服を脱がし始めた。
彼女いない歴25年。童貞のまま終わると思っていたので、女性との絡みをどうするのかについて、あまり知らない。素直に課長に従うことにした。
服を脱いだところで寝室へと誘われリビングの隣の寝室に入り、ベッドの上に寝かされ、課長のなすがままに体をゆだねて、ベッドの上で体を重ねた。
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