うざったい人間関係

大学生二年目にしてもうすべてを投げ出してしまいたい。そんな感情に満たされている。


例のウイルスの影響により、一年生の間はリモート授業、オンデマンド授業のみでの出席だった。友達はおろか、顔見知りでさえも現れることのない一年間。部活やサークルに歓迎されることもなく、アルバイトを募集している場所も無い。下宿のため、人と会うのは二日に一度、コンビニの店員と、スーパーの店員だけ。

退屈を凌ぐ術は、ゲームだけだった。


孤独で退屈な一年が過ぎ、大学生活二度目の春が来た。

徒歩で10分。正門が近づくにつれ、同じ方向へ歩く若者の数が増える。大学生って、こんなに多かったのか。高校卒業まで田舎で暮らしていた私は、入り乱れるような人の多さにうろたえそうになる。


正門から入ってすぐ左にある教室棟の方に、知っている顔を発見した。

彼女は坂崎由香里。高校の同級生だ。

彼女の周りには既に4人の取り巻きがいた。ここで「取り巻き」なんて考えが浮かんでしまうのが、私に友達ができない原因だろう。

でも、リモート授業しかなかった一年生の間に、どうやって同じ大学の友人を作ったのだろう。教室棟へ向かう、数人で構成されたいくつもの輪を不思議に思いながら、私は一人、皆と同じ教室棟へ足を運ぶ。


食堂は未だ各席ごとにパーテーションが置かれ、壁には「おしゃべり禁止 食べ終えた人の滞在禁止」と書かれた紙が、至る所に貼られている。

大学生活初の、キャンパス内での昼食。メニューはメンチカツ定食にした。

透明の板に囲われ、黙々と食していると、人が隣の席に座ろうとしていることに気付いた。

ふと右に顔をやると、そこには坂崎由香里が立っていた。ベージュのコートにレッドワインのセーター。明るい茶色の、少し巻かれた髪。ザ・女子大生だな、と私は思った。対し、私は紺色のジャケット、スキニーではないがぴったりとしたデニム、黒くぼさぼさの長髪。おまけに縁の赤い眼鏡。全国の女子大生を陰と陽に区分するなら、坂崎由香里は陽、私は陰だ。どちらが良いか悪いか、そんな定義はないが、世の中は私のような陰に住む女子大生を良しとしないだろう。

坂崎由香里の背中越しに、いくつかの人影があった。授業が始まる前から坂崎由香里を取り巻いていた連中だ。皆同じ髪色をしている。

私とは住む世界の違う人たちだ。そう思いながら、ただ黙々とご飯を口に運んでいると、「大橋さん、だよね?」と声が聞こえた。右からだ。嫌な声色。

ゆっくり右に首を振ると、坂崎由香里はこちらを見て微笑んでいた。

「さっきの授業で、二列目に座ってた、大橋さんだよね?」鼻につく声で尋ねられる。高校時代の嫌な思い出が脳をよぎった。

「私、二個後ろの席にいたんだけど、分かった?」分かるわけがない。お前が私のことを知らないように。

「うちの学部、女子少ないじゃん。だから早いうちに友達増やしておいた方が良いな、と思って」私に声をかけた理由を説明している。

「よかったら、学部内の女子だけでLINEグループ作ってるんだけど、どう?」

お前らの自己満足に私を巻き込むな。所詮大した連絡網にもならないグループを作ってどうするつもりだ。

高校を卒業した途端、それがさも義務であるかのように自分の髪を糞と似た色にする。自分が正しいとしても一人で決断できず、集団の意見に流される。挙句には自分の恋路さえ人に決めてもらう。お前の生き方は高校から全部間違っている。

その面を私に網膜に通すな。その声帯で私の鼓膜を震わすな。二度と、今後二度と、私に関わらないでくれ。



「学部内の女子だけで、集まらない?」LINEの通知。

私は自分の思考と裏腹に、誘いを承諾してしまっていた。結局は私も、集団から逃れられない幼稚な女なのだ。



坂崎由香里。彼女は、私の高校生活を濁らせた原因なのだ。


うざったい人間関係② へつづく

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