第9話 夏もそろそろ終わりですか

結局プールには行けなかった。

先輩は酷く落ち込んで申し訳なさそうな顔をしていた。


「先輩、元気出してくださいよ。別に雨になったからって、落ち込まなくってもいいじゃないですか。先輩が責任感じることじゃないですよ。」


「私のせいだよ、昔っからそう。みんなでどこかに出掛け様とするといっつも雨。

嘘じゃないんだよ。途中で私が帰ったりすれば、すぐに晴れ間に代わるんだから。

友達にもずっと雨女って言われて。

今じゃ誘うどころか家に居てってお願いされるんだよ。

今日だって…。

私、水着新しくしたのに…。」


「先輩…。」


「こんな事言われても迷惑だよね、ごめん。

私、帰るね。」

降りしきる雨の中へ飛び出そうとする先輩の手を、俺はとっさに握り締めていた。


「先輩。よかったら、もうしばらく俺に付き合ってもらえませんか?」


外は雨。

駅前のバス待合所のベンチに二人…。

時間はゆっくり流れていった。


______________


「先輩、いつまで落ち込んでるんですか。仕様がないじゃないですか、こんな大嵐じゃ。」


”さっきから雨凄いな~、横殴りって奴?運動部連中も休みだろうな、どこも閑散としてるし。こんな天気の日に出歩く人なんていないっての。”

天気は最悪、回復の見込み無し。せっかく部活が”休みだった”のについてない。

でも今更家に帰るのもなんか負けた気がしたんだよな。


”先輩、部室行きましょう。”

待ち合わせをした駅前から落ち込む先輩を拉致、部室へ連行。

結局普段通りの行動しかできないんだよね、人間って。


「なんすか、先輩。そんなに楽しみにしてたんすか?」


「高橋、お前は楽しみじゃなかったのか?

私は昨夜からワクワクしっぱなしだったんだぞ、お出掛けだぞ、海浜公園プールだぞ、若者たちの聖地だぞ。

何で雨なんだ~!!」


「いや~、そんな事言ってもですね。ちゃんと天気予報を確認しておかなかった俺たちが悪かったんじゃないですか?」


「そうだよ、その通りだよ。これだけの悪天候が昨夜の天気予報で予想されてない訳無いんだよ。分かってはいるんだよ。」


そうだよな、日本の天気予報は優秀だもんな。こんな悪天候予想できない訳がない。


「でも先輩、ラノベなんかで急に天候が崩れたりして、主人公とサブヒロインがどこぞの旧校舎とかで一夜を明かす急接近イベントなんかあるじゃないですか。

そうなるとこれってどうなんです?

俺たちみたいなお間抜けさんか、何者かの策略か。どちらにしても雰囲気ぶち壊しなんですけど。」


落ち込み顔から思案顔に代わる先輩。”その視点は無かった”と呟き腕組みをする。


「そうだな。そういった急接近イベントは憧れのシチュエーションで、私も何度か取り入れたことがある。だが見方を変えれば気になる相手と出掛けるのに天気予報も見ないのか?って突っ込み要素にもなるな。

まあ、私の様に浮かれすぎてすっぽり頭から抜けているとか、高橋の様にはなから気にしないと言った”お間抜け”なのかもしれないが、様々な活躍をする彼らにそれは当てはまるのか?」


部室備え付けのコップに今日のために用意していた「お~ゃ、お茶」を注ぐ。

昼食は海浜公園の売店で買うつもりだったので大したものは持っていないが、ちょっとした軽食も用意している。


”新作水着まで用意しておいて何で確認を怠る。私の浮かれポンチが~!”


なんやかんやで先輩も回復したようだし、嵐が落ち着くまでのんびりしよう。

窓に叩き付ける雨を見ながら、そんな事を考えるのであった。


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