第6話 夏の予定どうします?

「はぁ、終わっちまったな。」

試合の終わったグラウンド。

チームメートはもう帰ってしまっただろうか。


「相手チーム、強かったよな~。」

試合結果は15対3、五回の表が終わった時点でコールドゲームが告げられた。

今年の夏こそ…、自分なりに頑張っていたつもりだったが初戦敗退。

すっかり予定が空いちまったな…。


「高橋君、ここに居たんだ。もうみんな帰っちゃったよ?」

掛けられた声に振り向くと、女子マネが心配そうにこちらを窺っていた。

目元には泣きはらしたような跡が見える。

彼女も頑張っていたもんな、やっぱり悔しいよな。


「マネージャー、ごめんな。今年の夏、すっかり暇になっちまった。」

「そんな、謝る事ないよ。高橋君すごく頑張ってたもん、試合だってヒット打ってたじゃない。高橋君が責任感じることないよ。」

試合の事を思い出したのだろう。マネージャーの目には涙が浮かんでいる。


「悔しいよな、三年生の先輩の為にも初戦突破したかったよ。」

「高橋君が泣くことないじゃない、これから一緒に頑張ろうよ。」


頬に手をやると一粒の涙が伝っているのが分かった。

マネージャーの瞳が、じっと俺を見詰めている。

うるさいほど鳴く蝉の声が、なぜか遠くに聞こえるのであった。


______________


「なあ、高橋。」

「なんすか、先輩。」


”夏の日差しもかなり強くなってきたな~。窓を全開に開けているのに全然涼しくない。

部活動でのクーラーの使用の禁止って、何かが間違ってる気がするんだが?

そりゃ、学校としても電気代馬鹿にならないし?経営する側の意見も分からなくわ無いよ?でもさ、猛暑だよ?熱中症で死んじゃうよ?

この時期だけでも活動場所図書室に移せないかな?あそこはクーラー聞いてるし。

でもダメか、三年の進学組が占領してたわ。”

どうでもいいことをつらつら考えていたら、先輩がジト目で睨んで聞いてきた。


「私たちはなんで今ここに居るんだ?野球部に助っ人に行ったんじゃなかったのか?」 


暑いときはやっぱり麦茶だよな。

運動部が使っているようなジャグ(デカイ水筒)から麦茶お注ぎ一口。

あ~、やっぱ氷入れてきて正解だったわ。


「そうですね。一回戦で負けちゃったからじゃないですか?」

「そこだそこ、何だあの野球部、弱すぎるだろ。まともなのはお前が言っていた吉田って奴だけじゃないか!

点を取ったのも助っ人と吉田の所だし、最初にホームラン打った奴は二年のアニメ動画部だぞ!?」


「あ~、あの先輩強烈でしたね。

”すべてはアニメが教えてくれた。この俺を止められるものならやってみろ!”でしたっけ?

バッターボックスでいきなり宣言するもんだから、相手のピッチャー呆気に取られてましたよ。

あとから主審に厳重注意を受けていたのは笑えましたが、次の打席でもヒット打ってましたからね。」

「そうだな、あれは笑かしてくれたな。野球部の女子マネ、笑いを必死にこらえてうずくまってたからな。」

「え、そうだったんですか?気が付かなかった。

それはぜひ見たかったですね。」


おや?

女子マネの話になったら先輩の目が鋭くなったんだが?

小説とかでよく言う、”謎の圧が掛かる”とか”彼女が殺気を飛ばしてきた”とかってのは、こういう時に使うのか?殺気とかって全然感じたこと無いから分らんけど。

大体殺気なんて人間が感じれるものなのか?

動物的感が鋭い草食系男子?なら可能なのかも。


「ところで高橋が今書いているこれなんだが?」

「あぁ、これですか。やっぱりせっかく取材に行ったんで、早速作品に生かしたいと思いまして。使えるかどうかは分かりませんが、取り敢えず文章に書きだしてみたところっす。」


「お前試合の後いないと思ったら、グランドでマネージャーと何やってたんだ!

一緒に帰ろうと思って探したんだぞ、それをこんな、青春アオハルか!青春アオハルなのか!

お前も私を一人にするのか!

このまま野球部に転部して、女子マネとイチャコラいたすつもりか~!」



やっぱ今日は暑すぎだよな。もう一杯麦茶飲も。

そういえばさっき先輩睨んでたよな、先輩も飲みたかったのかな?

仕方がない、先輩にも入れてあげますか。

心優しい後輩に感謝して欲しいもんだ。


「やだな~、そんな訳無いじゃないですか。

先輩も麦茶どうです?」

「否定までが長いわ!!

否定にしろ肯定にしろ、なんでもっと早く答えない!

二人分の麦茶注ぐって、自由か!自由人なのか!?」

俺の入れた麦茶をグイっと飲み干す先輩、キンキンに冷えたものをそんなに一気に飲んだら…。

言わんこっちゃない、喉と胃の冷たさに悶え苦しんでいらっしゃる。

温めのお湯を飲めばすぐよくなりますよ。差し当たっては水道の水でいいんじゃないですか?

冷えてない水なら持ってる?それはよかった。


「で、グランドに残っていた件ですが取材ですよ。

こんな機会めったにないんで、グランド眺めてぼーっとしてたら声を掛けられたんですよ。

ま、悔しかったのは事実ですしね、せめて二回戦には進みたかった。」

「それじゃ、文芸部を辞めるんじゃないのか?」

「やだな~、辞める訳無いじゃないですか。確かに身体はそれなりに動きますけど、放課後残って練習するほど運動が好きって訳でもないですし。」

「でも女子マネと青春アオハルしてイチャコラするんじゃないのか?」

「先輩、イチャコラって昭和ですか。今時誰も分かりませんよ?逆に新しいとか言わないでくださいね、恥ずかしいから。

そんであのマネージャー、吉田の彼女ですよ。中二の頃から付き合っていて、今だラブラブですよ。

俺、あいつらと同じ中学なんで。

ラノベじゃないんだからNTRなんかしませんからね?

俺がそんなことしようと思ったら、ストレス性胃潰瘍で入院コースですから。」


先輩さっきからぱっちりお目目でこっち見てるんだけど。

なに、そんなこと気にしてたの?


結構この人恋愛脳なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る