第5話 先輩、しばらく休部します

「高橋、今少しいいか?」

俺はクラスメートの吉田に声を掛けられた。


「ウチの部ちょっと人数足りなくてな。公式戦の間、しばらく助っ人に来てくれないか?」

そう言えば、こいつ野球部だったな?

野球部と言えばサッカー部と並んで男子体育会系の華なんじゃ?

こないだ先輩も言ってだけど、昨今の部活離れはここまできてたんだな。


「で、悪いんだが、来週から一ヶ月ばかり助っ人として来て欲しいんだが、どうだろうか?」

俺としては特にこだわりは無いからいいのだか、他の連中は駄目だったのだろうか?


「帰宅部の連中はバイト志望だろ?

来週から解禁だから、みんな断られてしまってな。」

そうか、先輩が6月から一年生もバイト解禁って言ってたな。原稿全く進まなくて沼に嵌まってたから、全然気が付かなかった。


「了解した。一応部活の先輩に聞いてみるけど、来週から合流するわ。」


「文化部のお前に悪いな、今度何か奢るから。」


「なに、気にすんなって。

コ○スとは言わない、ガ○トで手を打とう。」


「ははっ、そいつは助かる。それじゃ、来週からよろしくな。」


「こっちこそ。」

俺たちは固い握手を交わし、教室を後にした。

今年の夏は何か違ったものに成りそうだ。仄かな期待を胸に、文芸部のいつもの部室に向かうのだった。


______________


「ってな訳で、しばらく助っ人に行って来ますんで、休部よろしくお願いしま~す。」


「ちょっと待てい、休部ってどういう事だ、ちゃんと説明しろー!」

「いゃ、だから、斯々然々かくかくしかじかで。」


「そんな説明で解るわけ無かろう!

それで解るのは物語の登場人物だけだー!」


「お~、ナイス乗り突っ込み。先輩やりますね。」


「あ、いや、どうもありがとう、って違うわ!

お前が何で休むのか聞いてるんだ!」


ちょっと休憩。

水筒に入れたお茶ってなんか不味くなるけど、ジャスミン茶なら結構いけるな。

すっきりした味わいが、乾いた喉に染みるわ~。

さて、


「だからさっき見て貰ったじゃないですか?あの文章のまんまですって。」


「はぁ?

あれはお前のラノベだろうが。それに何自分だけ寛いでいるんだ、自由人かお前わ。」

「いや、これって先輩が言ってたんですよ、"いい文章にはリアリティーが必要だ"って。あったでしょ、リアリティー。さっき実際に体験したばかりですから。」


「まぁ、アドバイスとして言ったかもしれないが、そんな事より文芸部の活動はどうするんだ、お前私を一人にする気か。」


「だから文芸部の活動の一貫ですって。取材ですよ、取材。リアリティーの追及ですって~。」

「それでどれ位助っ人に行くんだ?長くはないのだろ?」


「今のところ一ヶ月位ですかね?」




「行く。」


「へ?」


「私も行くぞ、野球部の取材だ!

一人になるのが寂しいからじゃないんだからな!」


あ~、まぁいいか。後で吉田に聞いてみよ。多分大丈夫だろうしね。

それにしても、ツンデレか?

先輩、相変わらず面白いな~。

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