第2話 頭髪検査は大丈夫ですか?

「ところで先輩。」

「藪から棒にどうした、高橋。」


今日も楽しい部活動。先輩は珍しく新作の執筆中の様だ。

あの人、集中すると書き上げマジ速いからな。その分普段だらけてるけど。


「昨日見てもらった俺のラノベあったじゃないですか。」

「ああ、まだ書き出しが決まっていないって言ってたやつか。」


「それで疑問に思ったんですけど、ラノベの主人公ってなんで茶髪で大丈夫なんですか?」

”ん?こいつまた変なこと言いだしたぞ?”って言った風にこっちを見る先輩。

それ昨日もやりましたから。お笑いじゃないんで、天丼しなくっていいですから。


「いや、気になったんで、教務主任の先生に聞いてみたんですよ。”茶髪にしたり髪型ビシッと決めたいんで美容院行っていいですか?”って。

そしたら生徒指導室に連れていかれて、校則三回朗読させられました。」


思いっきり開いた眼でこっちを見たかと思ったら、急に頭を抱えだす先輩。

どうした?何かあったか?先輩情緒不安定?

でも人間の目って、驚くと本当に大きく見開くのな。ラノベ嘘つかない。


「いや、お前の言いたいことはわかるけど、普通やるか、それ。なんか、校則変えようとか言って学生運動的なことをやってる奴もいるらしいって事は、ネットニュースでも見たことあるけど、ウチの学校はそんな奴いないからな。

せいぜい勝手に染めて生徒指導室送りになるのが関の山だからな。」


ああ、そういえばクラスの男子、入学一週目でバッチリ決めて停学くらってたわ。停学開けに、黒髪ボーズになってるのを見て爆笑したっけ。でも、それをネタにクラスに馴染んでたんだから、あいつのコミュ力すげーよな。


「男女ともに校則違反が目立ちだすのが六月ぐらいからか、それまではこっそり制服を着崩すくらいが精々じゃないか。」

先輩は目頭を指でつまみながら教えてくれた。


「でも校則で、”男子の髪型ツーブロック禁止”とか”女子のパーマ禁止”とか謳ってる割に、教務主任がっつりツーブロックなんですけど?

生徒指導のおばちゃん先生しっかりパーマだし。」


「それこそ校則あるあるだな。一時期はブラック校則なんて言葉も生まれて、深夜ドラマにもなったこともあるが、”教師と生徒は別”と割り切るのが現実的な考えじゃないか?

それこそ問題になっていた教師による学校内喫煙なんかは、社会的な禁煙傾向や分煙化が進み、[公共の場所での全面禁煙]が条例で施行されている地域もある。さすがに教職員も条例には逆らえないんじゃないか、学校は公共施設だからな。

それこそ社会に出れば道路交通法や会社の社則、社会通念や一般常識等々、様々な”ルール”に縛られるんだ。

鷹揚に構えるくらいの心持ちでいた方が楽に生きられるぞ?」


「まあ、そうですよね。ただの読者の時は気にもならなかったんですけど、自分も書き始めてみると、なんかあいつらずるくね?って思っちゃって。」


「それはお前が”作者の視点”で見始めているからかもしれないな。

前にも言ったがラノベは基本”願望の投影”だ。少なくとも、私はそのつもりで執筆している。

難しいことは考えず、欲望のまま、気の向くままに書くといい。あれやこれやは書き上げてから考えろ。」


先輩って、見かけによらず脳筋なんだな。

頭もこなれたし再開するか。

大きく背伸びをしてから、ノートパソコンの液晶画面に向き直るのであった。

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