「それじゃあ早速商品紹介のほうお願いします」

「はい。最初の品は、うしうし工房のカルビペンです」

「え? うしうし……なんですか?」

「ちょっと待ってくださいね、見てもらったほうが早い……」

 そう言うと、ザキさんはゴソゴソと鞄を探り、中から肉の載った大皿を取り出す。そうしてその肉を、トングで網に置いていく。

 油が焼け、弾け、炎が高く燃え上がる。

「あのー……ペンは?」

「ここです、ここ」

 ザキさんが肉の減った大皿をトングの先で指す。

 見ると、皿の真んなか、肉の布団に身を隠すようにして、ペン状のカルビが置いてあった。つまり、細長いカルビが。

「いや、カルビじゃないですか」

「はい……」

「はい……じゃなくて」

「でも、これすごいんですよ!」

 ちょっと見ててください、と言って、ザキさんはトングでカルビペンを掴む。そうして、肉を食べるのに使っていたのとは別の小皿にタレをため、カルビペンの先をちょっとつける。

「ほら、見えますか?」

「なになに……あっ!」

 目を疑った。ペンの先から、タレが吸いあがっていく!

「すげえ! 何これ!?」

「ペン先に溝が延びてるんです。そうすると、物理の力でインクがこの溝を上っていくんです」

 インク?と心のなかで思ったけれど、口には出さない。たぶんタレの一種なんだろう。ザキ、タレマニアだし。

「だからこれで肉の上に文字を書いたり、焼いて食べたりできるんです」

「すごいじゃないですか。ちょっと書いてみていいですか?」

 トングごとペンを受け取って、網の上に敷き詰められた肉すべてに「牛隣堂」と書いていく。

「なかなかいい書き心地じゃないですか。インクも全然切れないし」

「でしょう? すごい商品なんですよ」

 ザキさんは満面の笑みで牛隣堂と焼き付けられた肉を頬張る。郁さんとPも奥から出てきて、ペンが走る先からどんどん肉をさらっていく。クチバシを開くと、三人がそれぞれに肉を放り込んでくれる。熱い。けどうまい。

「最高っすね……で、お値段は?」

「7000円」

「ちょ……っと高いか」

「まあ……ちょっと……」

「牛角行って一番上の堪能コースにビールの飲み放題つけても7000は行かないですもんね」

「でも牛角はカルビペンがないから……」

「だったらアマゾンでカルビペンを買って牛角に持ち込もうって話ですよね」

「いや」

「なんすか」

「アマゾンは、駄目です」

「なんでよ」

「味が違うから」

「ほんとかなあ」

 ザキさんを茶化して遊んでいると、Pがデカ肉を切り分けながら、食べ比べてみればいいじゃん、と口を挟む。するとアマゾンの配達員がカルビペンを届けてくれたので受け取り、ついでに網交換も頼んだ。

「アマゾンのは、肉はついてこないんですね」

「そうなんですよ」

「まあでも、大事なのは味ですからね」

 タレを吸い上げ、「アマゾン」と書いていく。また皆が群がってそれを食べる。

「あー……確かに書き心地は悪いわ。うにうにして、肉で書いてるみたい」

「でしょう?」

「味も……うわ、全然違うな」

「だから言ったじゃないですか」

「こりゃ確かに言うとおりでしたわ」

 おいしくない肉に、郁さんがしょんぼりしてしまっている。仕方がないので、食べ残された肉をサンチュに来るんで一口で食べてしまう。熱い。油が重たい気もする。

「じゃあ岡崎さん。カメラに向かって言ってやってください」

「カルビペンは牛隣堂で買ってください」

「アマゾンでは買わないでくださーい、って」

「アマゾンでは買わないでください」

「COWないでくださーい」

「アマゾンではCOWないでください」

 Pが笑う。郁さんも笑う。

 観覧席ではくだんの群れが、ひとごとのように笑っている。

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