第24話 宣戦布告
「ね、姉さん……? うわっ!」
姉さんの本意が分からないまま無理やり部屋へと連れ込まれ、ベッドに投げ出され、その上に馬乗りになられる。その瞳は、怪しげに揺らめいていた。
くすりと、姉さんは笑みを零す。
貴女も透を欲するのならば──
──戦争をしましょう? 戸賀崎花音。
▼
深夜、不意にアプリの通知音が鳴った。
送り主は、透くん。彼からとは、珍しい。
ただ、送られてきたのは文字ではなく、何かのリンク。意図はよく分からないが、怪しいサイトに誘導することもないだろう。
私はベッドの上にうつ伏せになり、肘を付きながら何も考えずにそのリンク先を開いた。
リンク先は、とある動画サイト。
サムネイルには『戸賀崎花音へ』と真っ黒な背景に白字で記されていた。思わず眉間に皺が寄る。恐らく、正確な送り主は透くんではない、その背後に
正直、気は進まなかった。内容が何であれ、私を不快にさせるものに違いない。大方、私と透くんが恋人関係になったことが発覚したことによる意趣返しだろう。
とはいえ無視するのも癪であり、イヤホンを付けてから再生ボタンを押した。
「…………」
開始から数分して、私は無意識に舌打ちをしていた。内容は、素人AVのようなもの。
最初は、上から下へとベッドに横たわった透くんの裸体を真上から撮影したものが映った。その両手は手錠でベッドへと括り付けられ抵抗を封じられているようだった。せめてもの抵抗なのか、顔を赤くした透くんは目を瞑って真横を向いている。
不意に、画面に現れた手がその顎先を掴んで正面を向かせた。命令されたのだろうか、ゆっくりとその眼を空けるが、その視線はカメラには向けられずに左右へ忙しなく彷徨っていた。
それで撮影者は満足したのか。顔からゆっくりとカメラが移動していく。ピンク色の突起。肌理細かい、まるで少女のような肌。毛は、まだ生えたてのようだった。
やがてカメラは透くんから離れ、画面がガタガタと揺れ、すぐに止まる。恐らく、三脚に取り付けていたのだろう。ベッドの真横、少し高めからの視点。そして、無音だった映像に突如、鈴の鳴るような声がが入る。
『戸賀崎花音へ』
それは、この映像のサムネイルと同じ言葉だった。ここから、音声を入れることにしたらしい。
画面に、美しい肢体が映り込む。艶やかな黒髪。その人物は、ちらりとカメラへと視線を向けて透くんへと馬乗りになった。
先ずは、キス。きっと、アレにとっては初めてでは無い。けれど、透くんの反応を見る限り、彼は初めてなのだろう。否、初めてだと勘違いさせられている。その記憶を、消されている。
啄むようなキスを落とした後、我慢できなかったのだろう、透くんの後頭部に手を回して貪りついた。彼の舌を絡め取り、擦り合わせ、吸い上げる。それを示すように絶え間なく水音が響く。
それが、五分は続いただろうか。手が離れ、肩で息をする透くんがベッドに倒れ込む。アレもまた、肩で息をして手の甲で口許を拭った。透くんは、単純に酸欠による疲労だろう。
くるりと、アレはカメラの方を向いた。目を妖しく細め、ちろりと舌を出す。アレの体力がこれで尽きるわけもない。
アレの場合は、単純に堪えきれない欲情によって息を荒げているだけなのだろう。まるで
しかし、徐々にそれも
そう、彼は私の物。例えるならば、お気に入りの玩具をベタベタと汚い手で触られている気分だ。
人の物を。
同意も得ず。
遠慮もせず。
そんなこと、許されるはずもない。
愛撫は続く。突起を、舐めしゃぶる。その間にも、両手は彼の肌を撫でるように蠢く。激しく責め立てる、というよりは性感を高めることを目的としているように見えた。
再びの、嘲笑。
そうではない。何も分かっていない。透くんの魅力を引き出せていない。やはり、彼の魅力を、真価を理解しているのは私なのだ。
とはいえ、だ。自分の物が他者に穢される姿を見るのは気持ちいいものでは無い。確かに、透くんが辱められる姿を見ることは嫌なことではなく、寧ろ好ましいことだが、それは動画の中での出来事。
先程から、足の付け根に顔を下ろして、彼の顔色を伺いながら前後に顔を動かしているのは私では無い。彼を辱めているのは私ではない。
いよいよ本番に差し掛かるところで再生を止めてやろうかと思った。これ以上、アレらの情事を観ても不快感しかないだろう。無論、それが目的なのだろうが。
そう思うと途中で止めるのが敗北を認めるような気がして、私は画面に伸ばした手を引っ込めた。
馬乗りになった形で、一つになる。リズミカルな動きで、煌めきを放つ黒髪が宙を踊る。甘い嬌声が響く。やがて、その動きが速さを増していく。何やら、透くんが慌てた仕草を見せた。
『姉さ──ゴ……─ないと……!』
音声は途切れていたが、言っていることは想像出来る。アレがそんなことするわけないだろう。寧ろ、望んでいるはずだ。
透くんの声を無視して、彼のお腹に両手を置いて激しく粘着質な音を立て──
『──んっ……くっ……!』
アレが背筋をピンと伸ばして顔を上へ向け、一際大きな声を漏らした。同時に透くんの後悔の浮かんだ嬌声も響く。
数拍の後、アレは上半身を倒して透くんにしなだれ掛かり、耳元に何かを囁きかけていた。彼は、子供のように頭を左右に振る。
見た目だけは、恋人同士の愛の交わり。しかし、アレは義理の姉だ。いや、
──それで、終わらなかった。
今度は、手錠を外されての通常の体勢だった。両手首に付いた赤い跡が妙に目に焼き付いた。
しかし、その体勢で透くんが積極的に動くはずもない。上半身を持ち上げたアレが、ビデオに届かない声量で何かを囁く。
『ね、姉さんっ……!僕……!!』
そんな言葉と共に、行為は始まった。何を言われたのだろう。ともあれ、今の言葉は言わされたに違いない。まるで、アレを女として、性欲の対象をして見て、求めているような声は。
限界が近くなって来ただろう頃、やはり透くんは慌て始めて周囲を見回す。そんな様子を汗ばんだアレは妖しい笑みを浮かべて見つめている。アレが透くんに向けて、両手を広げて伸ばす。催促だ。結局、彼は動き始める。やがて、その動きもピークに達した所で彼は腰を後ろに下げようとして、その動きをクロスされた両足が阻む。
透くんの体がびくびくと震える。アレが歓喜の声を上げて、彼の体を両手で抱きしめ、頭を撫でる。耳元で、何かを囁く。彼は力を失い、その場で力尽きるように脱力した。
アレは慈愛に満ちた表情で彼の頭を撫でると、細めた目をカメラへと向けた。彼の体をそっと脇に退かし、膝立ちでカメラへと向かってくる。
不敵な笑みと共に、片手を下腹部へと持っていく。白い粘液の塊が、ベッドの上へ、どろりと垂れ落ちる。
『透は、私のモノよ』
そんな言葉と共に、画面に白魚のような手が伸びて映像は終了した。
別段、彼とそういった行為をしたいという気持ちはまだ無かった。しかし、こうも見せつけられた。清らかな体を、穢された。
「ふざけるな。透くんは、私の物だ」
いつの間にか下唇を噛んでいたらしく、赤い血が一筋垂れて真っ白なシーツへと染みを残す。
恐らく、アレは今日の記憶を保持させている。そうでなければ、ここまでする意味が無い。とすれば、残された時間は少ない。もう少しじっくりと事を進めたかったが、そうも言えなくなってしまった。
しかし、準備自体はもう出来ている。
「私が! ちゃんと魅力を引き出してあげるよ、透くん! あんな、化け物には無理なんだからさぁ! あはははっ!!」
真っ暗な部屋の中、天井を向いて
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