約束

「もし、そうだとしたら?」

「難しいな……」

「もし、この苦しみから解法されるとしたら?」

「分からない……けど、きっと幸せなのではないのでしょうか」


 これでこの苦しみも終わる。きっとそうだ。


「もしあなたが自由を手に入れることができたとして、それが……いや、私があなたを……」

「それでも、これが本当の自由だと言うのならば私は構いません」

「そう……これでこの苦しみも終わりを迎えるの……萎れる花のような、残酷な終わりを」

「それは非常に主観的ではないですか?」

「そうだけど、あなたは知っているでしょ?」

「何をですか?」

「あの日から時が動き始めた、仮初めの世界」

「それは……」

「いいの。思い出しても、思い出さなくても。ただ、本当は分かっているでしょ?」

「この濁ってしまった視界に映る世界での自由ということですか」

「ええ……偽の自由」

「哀しむべき……なのでしょうか」

「それは今後のあなた次第」

「嬉しい言葉ですね。きっとそうであることを願っています」

「これがあなたの選んだ自由だと言うのなら」

「そうですね」

「幸せでしょう?」

「はい……」

「嘘つき」

「……」

「……もし、頼みごとをされたとしたら、あなたはそれに応えてあげられる?」

「ええ。絶対に応えます」

「絶対はないって、あなたが言っていたのに」

「ふふ……そうですね」

「ありがとう」

「これが自分であるための最後の未来への道なのですから、あなたの為であり、自分の為でもある。だから、安心して下さい、絶対叶えますから」


 震える声でそう言った。


「じゃあ、頼もうかな」

「ええ……」

「頼りないね。でも、信じてるよ」

「あなたらしくない言葉です」

「そうかな……」

「ほんの少しだけですが」


「もし、そうだとしたら?」

「きっとあなたはまだ苦しむことになるよ。だけど、きっとこれまでみたいに、強く生きると思うよ」

「本当でしょうか……」

「大丈夫、きっと叶う」

「頼りないですね……でも、あなたがそう言うのであれば信じましょう」

「ありがとう。忘れないでね」

「ええ。絶対に……」



 タイムリミットはあと2年。もしこの約束を果たせずにその時を迎えたのなら、きっと自らの手で死を選ぶだろう。あの日のような満天の空は、最後まで見ることが許されないままに。これが自分であるための、最後の希望の道。


 日が変わる。霞んでゆく終焉に概導を照らして、懺悔の声を遠く澄める。数万年先でも、思い出を運んで、また星の下で会う約束を胸に。


 丘陵の上、夜風に揺れる木の下で、遺構を片手に横たわっている。辺りには色とりどりの硝子が散乱している。これがずっと望んでいたこと。自分が、私たちが、ずっと、望んでいること。

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