6:暫定

苦悩は概導となりて空に在り

幾千の狂気を汲めども

真に満ちる月は虚像であった

耽溺に祈れど

訪れるのは廻る幻想

己の正気を崩さんと

育つ枝へ手を伸ばし井戸を覗く

独り述べられた歪みに座すれば

永遠の時より眺めるものは

積み上がる咎の残骸

そうして解する風癲が

今の私に生の救いを与するのである


「なんと下品な真実であるか……これはまだ未熟故の愚行であるがな……」


 《究める先があれば、何れかはそこに立とうと大地を蹴る。問うことを許されぬ答えより、答えのない問いを選ぼうではないか》


 今では苦悩でさえこの永遠の虚空では救済となっている。少なくとも私にとっては、であるが……これが咎の残骸の上に座すということだ。

 私の名を訊ねるな…………

 ……《グレイゼクト》。それが私の名だ……これで満足か?

 そうだな、少しばかり解説しようか。

 知的好奇心は、それだけで莫大な価値を有するものである。

 そこに井戸があるだろう。その狂気を汲むこと、それが私のこの場での役目だ。無限に湧き上がり、大きな流れを形成するまでに至る醜美の濁流……それに安易に触れてはならない。無知は恐怖を産む、それこそがこの方程式の始まりの項であるからな。

 しかしながら、不思議なことにその狂気を汲めども汲めども、私が真に満たされることはなかった。

 退屈ではないがな……だが理解とはそうしてあるものだと私は考える。

 《グレイゼクト》……先ほど言ったが、これは無数にある内のただ一つの解に過ぎない。そして頁を繰れば、また新しい未知が訪れるように……

 そうだそうだ、これを言うべきだったな。

 さて、そこに堆積し構築される洲は、広大無辺な力によって成り立つ。

 これを覗くには、真に理解というものをその自我が手にする必要がある。

 骸より芽吹いた種、霞む導きの閃耀が射し枝は伸びる。それこそ、すぐ手に触れられる程に……だが私には何かが欠如していた……底から湧き上がる狂気でさえ私を満たすことはないのだ……

 ならば、永遠に等しい時を刻んだ、咎の崩壊を見ようではないか。そうしてまた、自我と共に積み上がっていくものなのだから……

 理解とは、如何にして在るものか。単なる知と同義か? ……否、見たことはあるか? 流れ落ちる運命の叛乱を……複雑怪奇、まるで制御不能の濁流を……しかし、それが私にとって生の救いとなり、無限と言って良い程の好奇心を私に与えるのだ。

 未熟者め……この力を扱うには強い自我が必要なのだよ。

流されるな、運命の濁流に。

 さて、いつしか望む結末をその手で構築するまで、今こそ忘れていた恐怖に向き合うべきだと私は考える。そう、再び枝は伸び、真に理解というものを、その自我が手にするまではな……

 したらば、私はまた井戸を汲んでいるだろう。またあの時のように、咎の残骸の上で、座して待っているだろう……

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