付箋:執事片岡の覚え書き④

 シンと、静まり返った店内。

 午前中のお客様は、いつもの常連メンバーだけだった。

 カウンター席に座り、自分の一番好きな香りが楽しめるグアテマラコーヒーで一息つく。

 テーブルには、小さなお客様が覗き見たあのスクラップブックが開かれたまま置かれていた。その中から一枚のページを取り出し、右手をかざす。すると、眩い光が現れ、あの時描かれた様々な“学校”が色とりどりに映し出されていった。


「……ふふっ。やはり、子どもたちの発想とは楽しいものですね。見ているだけでワクワクします」


 所詮、想像を投影するだけの代物。仮想空間で体験することはできるが、現実世界は変えられない。それでも、頭の中には物凄く大きな世界がある。未来がある。


「確かに、『希求筆記帳』を使っても現実世界は変えられません。でも、自分の思い描いたことを具現化して、仮想空間の中だけでも実際に体験できることはワクワクしませんか?今の子どもたち、いや、大人たちもそうですが、頭の中では素晴らしい思いを巡らせているのに、それを『うまく外へ出す』ことが出来ていない。溜め込み過ぎなのですよ。わたくしは、その素晴らしい思いを少しでも外へ出せるお手伝いをしただけ。皆様の思い描いた世界を見せていただくのは、わたくしにとってはとても美味なご馳走ですからね。そして、それを外へ出す場所、語り合える居場所があることで、常連客リピーターも増やすことができる。まさに、一石二鳥というわけです」


『希求筆記帳』に触れながら、ついつい独り言を呟いてしまう。


 ――おや?また新たなお客様が見えられたようです。常連客リピーターを増やすために、キビキビと働いてまいりましょう。今回は子どもたちが怖がらないようにあまりアレンジした世界は入れませんでしたが、次回は喋るネコや人型を模した小さな妖精、ドラゴンなどを出した世界にするのもありですね。



 いらっしゃいませ、お客様。ご注文は、何になさいますか?




                    (完)

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十人十色の学校ノート たや @taya0427

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