桜の運命
***
その日、あの場所で彼女を見つけたのは、ほんの偶然だった。
僕は鞄を肩に引っ掛けて、黄昏時に染まる帰り道をやや早歩きで急いでいた。
先生の雑用を手伝っているうちに帰宅時間がすっかり遅くなってしまったからだ。
ググ〜と音を鳴らして空腹を主張する腹をどうにか宥めながら公園を横切った時。
ブランコにぽつんと黒い塊のようなものが見えた。
なんと、その塊は桜花ちゃんだった。
彼女はブランコを動かすこともせず、ただただ虚空を眺めて佇んでいた。
頬に落ちている夕陽の影とそのまま溶け合って消えていってしまいそうな気がして。僕は思わず声をかけた。
「桜花ちゃん?」
確かめるようにそっと肩に触れると、彼女はぴくりと身体を震わせた。
「……っ、はる……と」
泣きそうな、でもどこか怯えたようにも見える表情で振り返って。
「え? え? どうしたの?! 何があった? 警察呼ぶ?!」
パニックに陥る僕。
「大丈夫。何でもないから」
「え? で、でも今……」
「ちょっと寝不足なだけ。居心地良くて
そう話す彼女の声音はいつも通りに落ち着き払っていて。慰めようと思った僕が逆に宥められた。
(なんだ。僕の思い過ごしだったのか)
泣いていると勝手に勘違いして取り乱すなんて恥ずかし過ぎる。
「……そっか。なんかごめん」
「別に。大丈夫。……じゃ、そろそろ私行くから」
「あ、うん。 バイバイ! また明日」
「……バイバイ」
彼女が去っていくのを僕は手を降って見送る。
特定の人以外は決して誰とも交わろうとしない彼女も最近では、僕にだけ挨拶してくれたりするようになった。
本来なら喜ぶべきことじゃないとは分かってはいるけれど、それが彼女の特別に触れた気がして何だか嬉しかった。
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