桜の運命
夕食後に散歩をするという、僕にはもう何年も前から日課にしていることがある。
最初はただの術後のリハビリ目的だったそれも、地元に帰ってきた今となっては単なる僕の趣味と化した。
今日も色々あって遅くなったけれど、いつものように食事を済ませてから家を出る。
街頭の少ないこの辺りは少し薄暗い。所々、青みを帯びた灰色の空が徐々に徐々に真っ黒に塗り潰されていくのを横目に僕はゆっくりと時間をかけて歩いた。
小学生の時まで住んでいたこの街の景色。昔はあんなに大きく見えた月が、今ではやけに小さく見える。道路の幅もこんなに狭かったっけ?
街も、空も、人も。変わらないものもあれば、変わってしまったものもある。
僕がこの町に居なかった間に何が新しくなって何が失われていったんだろう?
欠けた追憶のピースの行方に思いを馳せながら宛もなく歩くこの時間が僕は好きだった。
(そういえば、桜花ちゃんはちゃんと家に帰れただろうか)
橙色の夕日に沈みながら、遠くを見つめる彼女の目頭には確かに涙が浮かんでいた。
それは欠伸なのだと説明されたけれど、まだどことなく腑に落ちない。
「……」
いつも散歩コースは登下校ルートとは別の場所を選択するのだけれど、今日は足が公園の方へ向いた。
なんとも言えないこの感情がただの杞憂に終わればいい。
そう思いながら踏み出すペースを早めた時だ。
(……何だあれ?)
遠くの方でゆらゆらと漂うように揺れている影を見た。
長い髪にほっそりとした白い手足。そのどこか見慣れたシルエットは、
(……桜花ちゃん?)
やっぱり、彼女だった。
(どうしてここに? 随分前に別れたはずなのに)
詳しい住所は知らないが彼女の家は、ここからだいぶ離れた場所のはずだ。
しかも、なんだか様子もおかしい。
格好が数時間前に別れた時のままだし、真っ直ぐに歩けないのかふらふらしている。足取りもどこか覚束ない。
さっき感じた異変はやっぱり気の所為なんかじゃなかったんだ!
当然、心配になった僕は後を追いかけた。
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