桜の運命

 高校3年生の春。転編入するには、めちゃくちゃ中途半端な時期だ。


 そんな時期に新入りとして加わるのは多少なりとも不安だったけれど、思いの外早くクラスに馴染む事が出来たし、それなりに友達も出来た。


 新しい学校は、地元では有数の進学校で名が通っていると聞いていたが。


 真面目で堅物な人が多そうな進学校のイメージに反して、この学校の生徒は良くも悪くもフレンドリーな人が多い印象だった。


 新学年が始まったばかりからなのか、まだ受験生特有のピリピリ感もなく、はっちゃけて遊んだりして休み時間中は教室が動物園状態になっている時もあるくらいだ。


 もしかしたら、休み時間は静かに過ごしたり勉強していたい人にとってはあまり居心地の良くない所でもあるかもしれない。


 でも、僕は今までベッドの上で同級生たちの輪を眺めてばかりだったから。


 クラスメイトたちと取り留めのないことで笑い合える間柄にいることが僕にとっては何事にも変えがたい程に嬉しかった。


 だから、余計に気にせずにはいられない。ここに彼女も居てくれたらいいのにと。


 桜花ちゃんは部活では高山さんや隅野くん達と楽しそうに喋っている。


 けれど、僕の知る限り、それ以外の面子では、誰とも話しているのを見たことがなかった。ましてや笑顔での会話なんて尚更に。


 時々うざ絡みにしに来る和泉を鬱陶しそうに払い除けているくらいで、基本的に自分から誰かに交流していくような様子が一切ない。


「楠木ってさ、学校に何しに来てんだろうね? 休み時間はずっと一人だし。こっちは一人じゃ可哀想だと思って親切心で話しかけてんのにスルーするし」

「楠木さんって、ある意味構ってちゃんだよね。私、他人なんて興味ないです〜〜なんて、アピールしてさぁ、絶対話しかけてもらうの待ってるっしょ」

「分かるー! そこまでして男子の気を引きたいのかって感じ」

「私は他の人間と違いますから〜みたいなあの態度、マジムカつくわ」

「顔がいいのってほんとずるいよね。あれでブサイクだったら即リンチっしょ」


 時折、女子達の陰口を耳にしてしまうくらい、彼女の評判ははっきり言って良くなかった。


 どうして皆と話そうとしないのか不思議に思った僕は桜花ちゃんに尋ねたことがある。やはり答えは返ってこなかったけど。


 でも、そんな彼女の徹底して他人と関わらないようにしている様が僕にはあえて嫌われにいっているような気がしてならないのだ。

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