第二章
桜の運命
僕がこの学校に転入して来て、早2週間弱が過ぎた。
「えーとぉ、朝比奈くん。元気かい? 部活はもう決めた?」
にこやかな笑顔で話しかけてきたのは、教頭の菱川先生。担当教科は地理歴史。
還暦手前の人当たりの良いおじいちゃん先生だ。
いつも、すれ違い様に転入生である僕をさり気なく気に掛けてくれる。
「あ、はい! ちょうどこれ出しに行こうと思っていました」
手に持っていた用紙を手渡す。
「お〜どれどれ……」
受け取った入部届けに目を通す菱川先生の動きが僅かに止まった。
ある一定を注視している。何か変なことでも書いてしまったのだろうか?
「菱川先生?」
「……これは、朝比奈くんが?」
指された右端には小さくイラストが鎮座していた。
それは、丸の中に目と口が簡素に書かれたよくあるニコちゃんのマークだった。
巷で見かけるようなものと唯一違うのは、口元に小さなちょび髭が付け足されている点だろう。
しかし、それを認識した瞬間、僕の血相は勝手に青色へと変化しにいった。
(高山さんの!!)
そういえば、昨日部室で入部届けを書いていたら、高山さんに落書きされたので家に帰ってから消そうと入部届を鞄に閉まったのをすっかり忘れていた。
「……すみませんっ! 今すぐ消してきます」
「あ〜、ええんよ、ええんよ。どうせレイくんのいたずらでしょ」
「へ? あ、いぇ……その」
どう答えるべきか言葉には詰まっていると、菱川先生が先に喋った。
「あー、顧問なのにあんまり顔出せなくて悪いねぇ……でも、なかなかに面白い子達だろう?」
菱川先生の表情は、完全に自慢の孫を紹介する時のそれと同じだった。
「はい。部の皆と居ると楽しいです!」
だから僕も素直にそう答えた。
いたずら好きだったりなんだりで、ちょっと変わってはいるけれど。
それもすべて僕が馴染めるようにって配慮してくれた彼女たちなりのコミュニケーションだと思うから。
「あ〜〜そうか。そうか。なら良かったねぇ〜。それじゃ、皆にもよろしく言っといてな〜〜」
と言って、菱川先生はふぉふぉふぉと特徴的な笑い声を上げながら去っていった。
(……菱川先生もちょっと変わった人なんだよな)
実際話していると、あーやえーとかの口癖が多かったり、ふわっと伸びる語尾がさらに好々爺を演出している。
「……あれ? でも何で高山さんだって分かったんだろ?」
高山さんによって書かれたものだと判明するようなものは一切なかったはずなのに。
「獅子ー! 急がねぇと遅刻だぞー」
「今、行く!!」
クラスメイトの呼び声に思考から引き戻された僕は、一旦それを放棄して次の移動教室先へと急いで向かった。
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