閉じた蕾

(旧校舎2階の社会科準備室。旧校舎2階の……あった! ここだ)


 場所柄、ここまで大分人気ひとけのない廊下を突き進んできて、途中から不安だったが良かった。


 目の前の部屋からは微かに人の気配がする。呼吸を整えてドアノブに手をかける。


「……失礼します」


 扉を開けると、予想に反して、部屋の中は薄暗く人っ子一人見当たらなかった。


「あれ? 誰もいない……」


 ほぼ使わない準備室を部室権物置き部屋として扱っているのか、やや埃が被った棚には教科書や資料に混じってタイトルの判別のつかない蔵書もごちゃごちゃと並んでいて。


 薄暗い部屋の中を差し込む西日が、ちょっと秘密めいたような他の教室にはない空気を醸し出している。


 僕はそこでとある物を見つけた。


「……戦闘機?」


 いわゆる、プラモデルってやつだろう。白で塗られた側面に桜のマークがついた手乗りサイズの小さな機体。


 昔、実際にあったものなのだろう。丸みを帯びたボディラインがどことなく初期の頃の新幹線に似ている。


「それが何か気になるかい?」

「え? あ、うん……って、わぁ!?」


 どこからともなく隣に現れた学校指定のジャージ姿の女子。僕は突然のことに驚いて情けない声になる。


「お、いいね〜〜。その驚きっぷり。実にいいよ! ね、君もそう思うだろ?」


 活発そうな少女の動きに合わせて、ちょんまげっぽく結んだ前髪がぴょこぴょこと揺れている。


 見渡す限り他に誰もいないのに、いったい何処に話しかけてんだよ……と思っていたら、実際にもう一人いて今度は悲鳴を上げそうになった。


 奥にある棚と棚の隙間に挟まるような形で眼鏡をかけた男子が体育座りしている。どっからどう見てもホラー映像だ。


「隅野くんは隅っこが好きなんだよ。名前のまんまでしょ」


 へぇ。


(彼、隅野くんって言うんだ。隅っこ好きなんだ……って、そんなことはどうでもいい!)


 この構図がとんでもなく不気味過ぎて、一刻も早くこの場から立ち去りたい。


 あまりの恐怖に目的を忘れてドアに向かおうとしたら、


「おっと〜、どこに行くのかな?」


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべる少女にがっしりと腕を掴まれ、引き摺り込まれた。


 無論、僕の恐怖が限界点に達したのは言うまでもないだろう。

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