閉じた蕾

「……なぁ、決めた?」

「え?」

「部活。何入るか」


 そういえば、この学校は部活動必須だって担任が言ってたっけ。でも、何でこのタイミングで?


「いや? まだだけど……」

「そ。ちなみにあいつ、心霊研」

「心霊研?」

「超常現象及び心霊研究部、略称心霊研。興味あんなら行ってみれば?」

「……僕なんか行っても迷惑だと思うけど」


 和泉の言うあいつが桜花ちゃんの事を指すのであれば、十中八九門前払いされるだけだ。なんせ今、思いっきし避けられ中だし。


「まぁ、楠木は思いっきり嫌がるな〜」

「そんなにはっきり言わなくても……」

「だから、最初に言ったろ? あいつはあれがデフォだって。昔がどうかは知らないけど、今はそうなんだよ」


 “今”という単語を強調した和泉。


 言外に諦めろと言われたような気がした。


 お前が探し求めている楠木桜花はもうこの世に存在しないのだからと。


 どことなくそのすべてを知った風な感じが面白くなかった。


「けど、入部希望者ならどこも大歓迎っしょ?」


 付け加えられた言葉にハッとする。


 確かに、桜花ちゃん個人に拒まれたとしても、部活というグループとしてならどうだろう。


 よっぽどメジャーな部活でもない限り、新入部員というのはどの部においても喉から手が出る程欲しい存在なはずだ。


 ……実際僕は3年生だから半年以内には引退が迫ってはいるけど。


 それでも、まぁ新入部員ってやつには代わりはないし、なんて言ったって同じ部活なら接点が持てる。


 どんなにうざがられようが、拒否されようが、話しかけても何らおかしくはないよね? 同じ部活なら。


 昔のことを覚えられてないってんなら、それは残念だけど、新しく覚えて貰えばいいだけだし。


(……決めた。認めて貰えるまで絶対に諦めない)


 例え関係がイチから振り出しに戻っても、会うことすら叶わなかった日々に比べたら些細な誤差ってもんだ。


「サンキュ!」


 基本的に単細胞な僕は、思考回路も至って単純だった。そんな僕に和泉はニカッと笑みを浮かべて親指を立てた。


 きっと、落ち込む僕を心配して、彼なりに友人の背中を押しに来てくれたんだろう。


(さっきはいらっとしてごめん!)


 心の中で謝りながら、目的の場所に向かって走る。


 長年の運動不足ブランクでスピードはとろいけど、気持ちだけは全力疾走のつもりだ。

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