閉じた蕾
「見ぃたぞ〜〜朝比奈ぁ」
肩に腕を回して体重を預けてくるのは、和泉悠人。バスケ部で桜花ちゃんと同じクラスの男子だ。
「い、和泉くん」
「和泉でいいって。他の奴もそう呼んでるし」
「じゃあ、和泉」
「おう!」
言われた通りに名前を呼ぶと、和泉は人懐っこそうな笑顔を浮かべた。
昨日、彼女の所在を他クラスの人に訪ねに行った時に親切に教えてくれたのが和泉だった。
「しかし、楠木に告るなんてマジ勇者だな、お前。あいつ地雷で有名なんだよ」
「や、告ったわけじゃ……」
「え、違うの?」
「何何?! 誰が誰に告ったって?」
「やー、こいつがさぁー」
「ちょ! 隠さないで教えてよ〜」
人気者らしい和泉の周りには沢山の人が集まり、すぐさま軽い人だかりが出来た。
終いにはもみくちゃになって戯れ合う集団を何事かと横を通りすがる生徒達が不思議そうに見ている。
「聞いたよ! 楠木に振られたんだって? ドンマイ」
あれから、和泉のお陰で僕はちょっとした有名人になってしまった。
どうやら、皆の認識の中の僕は転入早々、桜花ちゃんに告白して振られたことになっているらしい。
まだ初対面の挨拶すら交わしたことのない生徒にまで茶々を入れられる。……彼女に迷惑がかかってなければいいのだけれど。
気になって休み時間に様子を見に行けば、案の定他クラスの生徒に指差されてにやにやされたし。
肝心の彼女の方はというと、そんな複数の下世話な視線に晒されても我関せずと言った様に目の前の文庫本に集中している。
(さすが桜花ちゃん)
密かに感心していたら、ふと顔をあげた彼女と目が合った。ぱちぱちと2回程瞬きしたその瞳はすぐに逸らされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます