第一章
閉じた蕾
ーーーようやく会える。
待ちわびた瞬間に身体が歓喜で震えているのが自分でも分かる。大きく息を吸って吐き出す。
「桜花ちゃん!」
呼びかけると、その子が振り返った。遠目からでも分かる程、色白の肌にぱっちりとした瞳。うっすらと赤く色づいた唇。
『れおくん!』
何度も頭の中で繰り返した、可憐な花が開くようなあの笑顔。それがまたもう一度見られるんだ。
きっとこれから景色が変わると、そんな風に期待に胸を膨らませた僕はとんだ思い違いをしていたらしい。
「ーー誰?」
さくらんぼのような彼女の小さい唇からは、警戒するように短く低い音が発せられて。ぱっちりとした瞳も訝し気に細くなった。
「れ、れおだよ! ほら、小学校の時同じクラスだった
僕はまるで蛇に睨まれた蛙の如く、冷や汗の吹き出る背筋を伸ばし、害意はないことを必死で伝えた。
「……あさひなれお?」
「そう! 獅子です!」
「……れお」
反芻するように僕の名前を呟く彼女。
「久しぶり、桜花ちゃん。元気だっ……」
「やめて!」
再び鋭利な何かがこの場の空気ごと切り裂いた。
「……え?」
呆然としている僕に彼女が淡々と告げる。
「名前で呼ばないで。めちゃくちゃ不愉快」
「っ、」
邪魔。と彼女は手で払い除けて校舎に向かってすたすたと進んで行く。
その気迫に思わず尻もちをついた僕の周りで桜が舞った。
「……あ」
と小さく洩らした彼女がふと立ち止まり、振り返る。
「一つ忠告。レオだかトラだか知らないけど、私に関わんない方がいいよ。……死にたくなければ」
そう言い残し、今度こそ彼女は去っていった。
確かに、この瞬間から僕の景色は180度変わった。
けれど、想像していた未来とはまったく違うもので。
『早く元気になってね? 待っているから』
明るくて、優しくて笑顔が素敵だったあの女の子の面影はどこにもなかった。
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