第45話 フルボッコ

 闘技場の中心。


 生徒全員がロードルを取り囲んだ。これだけ人数がいても勝てる気はしないが、一泡吹かせるくらいはしたいところだ。


「さあ、誰からでもいいからかかってこい。全員叩きのめしてやるから」


 ロードルは余裕といった様子で俺たちを挑発した。


「コール、イグニス・ヴォルグ」


 俺は魔剣を呼び出し、他の生徒たちも詠唱を始め臨戦態勢に入った。


 彼らの攻撃が終わった後、隙を伺って仕掛けることにしようと考えたその時だった。


「鈍いな」


「えっ」


 先ほどまで離れた場所にいたはずのロードル先生の声が後ろから聞こえ、気づけば俺の体は宙を舞っていた。


 そしてそれを自覚した瞬間、股関に強烈な痛みが走った。


「ぎゃあああああああ!!!!!」


 どういうわけか、ロードルは一瞬で俺の背後に周って金的ごと蹴り飛ばしたらしい。


 意味が分からない、痛い、泣きそう。


「お前たちも、詠唱が終わるまで遅すぎる。しかも大した魔法は撃てないときた。これは徹底的な教育が必要だな」


「あ、が…」


 途切れかけていた意識の中、他の男子生徒たちの悲鳴が聞こえてきた。


 男子はみんな俺みたいに玉を蹴られているのか?だとしたら、女子には一体なにをするんだろうか?


「カレナ…逃げろ…」


 カレナの無事を祈りながら、俺の意識は途絶えていった。


 目の前が真っ暗になった。


 ※ ※ ※


 気づけば知らないベッドの上にいた。


「ここは…?」


「あ、グレンくん起きた!」


「カレナ…」


 どうやら意識を失っていた間、カレナが看病してくれていたようだ。


「えっと、大丈夫?アソコ、すごく痛そうだったけど…」


「え?ああ…」


 そうか、ロードルに蹴り飛ばされる姿を見られていたのか。多分かなり情けない声を出していた気がする。恥ずかしい。


 既に痛みは引いているが、心にできた傷は決して浅くない。


「聞かないでくれ…」


 思い出すだけで恥ずかしくて死にたくなる。


「あ、そういえば、もう放課後だから目が覚めたら帰っていいってロードル先生が言ってたよ」


「え?なんか授業した気がしないな…そういえば、カレナたちはなんか痛い目にあったのか?」


 男たちが金的を蹴られたように、それに準ずる何かをされたのではないかと少し疑問が浮かんだ。


「うーん、ちょっと課題を出されたくらいかも?攻撃されたけど、学園長の結界のおかげで痛みはなかったから」


「そうか…ん?」


 俺はあることに気がついた。


「なんで痛みを感じない結界で俺は激痛を感じたんだ?」


「多分、学園長が女性だから?」


「へぇ…よくわからん」


「まあ結界術なんて難しいし分からなくていいと思うよ?私もほとんど分からないし」


「まあ、それもそうか…」


 今はまだ、難しいことは考えないようにしよう。魔力量的にも結界術なんて夢のまた夢だろうし、原理が分かったところであの時の痛みが無くなる訳じゃない。


「くそ…思い出すだけで怒りが…なあカレナ、ロードル先生って今どこにいるんだ?」


「え?普通に職員室だと思うけど」


「行ってくる」


「あっ、ちょっと!」


 あれだけ恥をかかされたのだ。一発蹴らなきゃ気がすまない。


 俺はカレナの制止を振り切って、ロードルがいる職員室へと向かった。

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