第44話 クールを装った変人

 俺が教室を出てそろそろ5分が経過する。制限時間は気分で決めたのだが、あの教室からこの闘技場まで5分で来るのは至難の技だ。果たして誰が1番に到着するか、そもそも5分以内にここに来る生徒がいるのかどうか怪しい。



 ふと闘技場のロビー出口から外を覗いてみると1人、いや2人がこちらへ猛接近してくる様子が見えた。1人はもう1人を抱えて、そして抱えられている方はおそらく風魔法で追い風を作って補助をしている。



「やっぱり騎士団候補生は違うな」



 遠目だがあの2人はおそらく、騎士団候補生のグレン・ブエルガンとカレナ・クレンツアインだろう。既に顔と名前は把握しているから分かる。



 騎士団候補生は戦闘力、判断力や思考能力が並の生徒たちよりも優れている。なんせ彼らを指導しているのは戦闘のプロなのだから、一般の魔法学校とは教育の質が違う。



 そして2人は闘技場まで入ってきた。ギリギリセーフだがこの無茶ぶりの中で間に合えば御の字だろう。グレンは息を切らしながらカレナを降ろした。



「はあ……!はあ……!間に合ったか……?」



「なんとか間に合ったみたいだね……グレンくんありがとう」



 カレナは時計を見るなり安堵した表情を見せた。教室の時点で時間を把握していたようだ。おそらく制限時間5分が無茶ぶりだと最初に理解したのは彼女だろう。



「まさか間に合うとは思ってなかったが、さすがは騎士団候補生だな」



「いえ……あの先生、この無茶ぶりな制限時間にはなんの意味が……?」



 グレンが訪ねてきた。まあ疑問を持つのも仕方がないだろう。俺も生徒なら似たような質問をしている。



「まあ、いずれ分かるさ」



 俺はグレンの質問に曖昧に答え、残りの生徒たちの到着を待った。



 ※ ※ ※



「よし、全員揃ったな」



 俺とカレナが教室を出てから約10分。全ての生徒が闘技場に到着した。着いたばかりの数人はまだ息を切らしているが、授業が始まるのは実はこれからなのである。



「俺の授業ではこういう無茶ぶりをよくやるつもりでいるからな。ちなみに全部成績に入るから、次から警戒しておくようにな」



「えー……」



 これを高頻度でやられるとなると、授業の合間は気を抜けそうにない。似たような内容の復習で暇を持て余した先ほどの必修科目とはえらい違いだ。



「で、次はお前らの実力を計りたいからな。だから今日は闘技場を借りた。ここにいる全員、今から俺と戦ってもらう」



「「「「「!?」」」」」



 先生の言葉に、俺を含めたその場の生徒が驚愕の表情を見せた。そんな俺たちの反応も意に介さず、ロードル先生は言葉を続けた。



「自分語りになるが俺は弱いやつが大嫌いでな?俺が授業で受け持つ生徒たちのことは大好きでいたい。大好きになって、卒業式で泣いてやりたい」



「「「「「??」」」」」



 突如意味の分からない自分語りを始めたロードル先生からは、最初に感じていたクールな雰囲気を感じられなくなった。カレナの言っていた「クールを装った変人」という予想はもしかして合っていたのだろうか?



 そのカレナの方を見てみると、口を半開きにして呆れている様子だった。どういう顔したらいいのか分からないよな。その気持ちはめちゃくちゃ分かる。



「だからお前たちには強くなってもらう。今のお前たちは弱い!だが、どこがどう弱いのかは今の俺には分からん!それをこれからお前たちと戦って知っていくつもりだ!頼む、卒業までにお前たちを大好きにさせてくれえっ!」



(おいおいおい、なんか授業前に感情爆発させてきちゃってるよ)



 生徒たちが困惑する中、ロードル先生は指を鳴らした。それと同時に、ロビーにいたはずの俺たちはいつの間にか闘技場の中心に移動していた。入学試験でグレースと俺が戦った場所だ。



「学園長に、俺が指を鳴らすと生徒たちを転移してもらうよう頼んでおいた。さあ、全員同時にかかってくるといい。授業開始だ」

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