第43話 炎の担当教師ロードル

 あれから学園内を散策した後、ニアは水の選択授業を受けるため俺たちと別れ、現在俺とカレナは炎の選択授業が行われる教室で先生が来るのを待っていた。



 A組の人間は俺とカレナと他数名しかいない。他の組の生徒たちを合わせても20人行かないくらいだ。



 炎魔法が基本4属性の中でも扱いづらいものなのだとは分かっていたけど、ここまで人が少ないとは思わなかった。



 ギルが登校していればこの教室に居たのかもしれないが、居ないものは仕方がない。



「炎担当の先生ってどんな人だろうな。やっぱり熱血教師なのか?」



「……クールを装った変人とかじゃない?」



「なんだその予想は……」



 カレナのあまりにも具体的な予想に思わず面食らってしまった。



 炎の教師と言えば熱血というのが鉄板な気がするが、実はその鉄板は俺の読んでいた本だけの話で、世間一般ではカレナの言う「クールを装った変人」が炎の教師の鉄板なんだろうか。



 そんなしょうもないことを考えていたら、教室の扉がゆっくりと開かれた。



 そこから入ってきたのは、炎魔法の使い手であることが人目で分かる濃いめの赤髪と、気だるげな目が印象的な細めの顔。



 そしてそこに、体格ががっちりしているというギャップ。腰に帯剣していることから、この人がただの魔法使いではなく魔導剣士ということが分かる。


 


「待たせて悪かったな生徒たち。俺はロードル、見ての通り魔導剣士で炎の選択授業の担当教員だ。ちなみに剣術の授業にもたまに顔を出してる。あーでも、お前らには関係のない話だったな」



 と一通り言い終え、ロードル先生は首を撫でた。気だるげな雰囲気はありつつも、どこかクールな印象を受ける先生だ。



 集合時間を過ぎているわけでもないのに謝ってくるのはしっかりした大人である証だろうか。実にクールだ。



 カレナの予想は意外と当たっていたのかもしれない。まあ、このまま行けば変人路線なわけだが。



「とまあ、自己紹介はこの辺にしておいて、俺はお前たちのことを知らなきゃいけない。俺の授業は生徒たちの実力を見て、それぞれに合ったノルマを与えるっていう特殊なやり方なんでな」



 つまりは、生徒一人一人に向き合った授業形式というところだろうか。毎日授業があるのにその形式でやっていくなんて普通に考えてすごすぎる。



「とりあえず、お前らがどれだけ出来るのか知りたい。全員着替えて闘技場に集合な?5分で来い、時間破ったら減点だからな」



 と、教室から出て行った。去り際のセリフまでかっこいいなんてクールだ。



「やばい……グレンくん急ぐよ!」



 先生が去った直後、カレナは何やら焦った様子で俺の手を取って教室を出ようとする。



「急にどうしたカレナ?」



「ここから闘技場まで着替えて5分なんて全力で走ってギリギリだよ!私たちはもう、あの先生に試されてる!」



「!」



 その言葉を聞いて、教室にいる他の生徒たちも即座に席を立った。



 カレナに言われてやっと気づいた。



 この教室は校舎の3階にある教室のうちの1つだが、校舎から闘技場までは遠すぎはしないまでもそれなりに距離がある。そして更衣室に移動して着替えるまで最低2分はかかるだろう。



「カレナ!ちょっと飛ぶぞ!」



「え?飛ぶってここ3階―――――」



 俺は教室の窓を開け、カレナを抱えて飛び降りた。更衣室に早く着くには、律儀に階段を使うよりもこっちの方がはるかに早い。



「きゃあああああ!」



「よっと!」



 俺は足でしっかり着地し、カレナを降ろした。他の生徒たちはまだ階段を下りている頃だろう。



「よし、急ごう!」



「う、うん!ありがとう!」



 ひとまず時短ができた俺たちは、運動用の服に着替えるため急いで更衣室へと走った。

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