第42話 黒歴史

 ヴァルが教室から去った後、気を取り直して学園内の散策を始めた俺たちは、校舎から少し離れた森の中にある庭園に来ていた。



「俺とカレナが初めて会った場所だよな、ここ」



「え、そうなの?」



 当然ニアはそのことを知らないので驚いていた。



「そうそう、グレンくんって試験会場までの道のりで迷子になったみたいでさ。ここで偶然出会ったんだよねー」



「え、グレンくん迷子になったの?」



「……その話は勘弁してください」



 からかってる側のカレナは楽しいのかもしれないが、からかわれてる側のこっちからすれば、ニアの純粋無垢な視線が痛い。恥ずか死ぬ。



「……それにしても、カレナはヴァル相手に張り合えてすごかったよな?あんな異質なオーラを出すやつ、俺はできれば戦いたくない」



「……私も」



 少々無理矢理に話題を変えてみたが、ニアが乗ってくれたのでセーフだ。



 それに、あの時のカレナの頼もしさは本当にすごかったし、今後魔族と戦っていく身としては、どんな心境でヴァルと対峙していたのか気になる。



「あの時はその……グレンくんが危険な目に遭うかもって思ったら、いてもたってもいられなくなって」



「……俺をあいつから守るために?」



「……もう誰も失いたくないから」



「なんて?」



 カレナが神妙な面持ちでなにか呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。



「ううん、なんでもない。それより、もっと散策しなくちゃ。次の授業の場所調べに行こ?」



「あ、ああ」



 なんか無理矢理に話題を逸らされた気がするが、それは俺もしたことなのであまり追及しないことにした。



 ※ ※ ※



 学園を出てすぐのところにある路地裏で、俺は1人呟いた。



「まさか1年にあんな逸材がいるとはねえ……グレース・アイシクルロードと遜色ないポテンシャルだ」



 瘴気で強化されている炎魔法を、相性が悪いとはいえ水魔法であっさりと防がれた。瘴気に対してビビっている気配もなかったし、彼女の戦闘力は未知数だ。



『カレナ・クレンツアインか……魔大陸の瘴気を取り込んでいても勝てそうにないか?ヴァル・マリクスホード』



 突如、何もないところから黒いもやもやが現れた。彼がいきなりやってくるのはいつものことなので驚かない。



「見くびるなよ先・生・。俺があんな女に負けるわけないだろう?」



 先生。俺の視線の先にいる黒いもやもやだ。隠蔽の魔術によって、他者から見た自身の姿を変化させることができるそうだが、残念ながら彼の魔術には詳しくないのでそれだけのことしか知らない。



『君は貴重な実験体だ。くれぐれもしくじるなよ?学園の教員に見つかれば面倒だからな』



「はいはい」



 俺が適当に返事を返すと先生は消えていった。これもいつものことだ。正体は知らないが、俺に瘴気をくれた最高の恩人だ。そんな恩人の言葉を、俺は無下にしない。

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