第41話 横槍

「あんたと俺が?」



 ヴァルからのいきなりの宣戦布告に、俺は戸惑いを隠せないでいた。ギルのことは気になるが、ヴァルと戦うのは少し危険な気がした。



 ヴァルから漂う目には見えない異質なオーラは、昨日トリルエル先生が教えてくれた魔大陸の瘴気となにか関係がありそうだ。



 だって、こいつの性格は歪んでいる。そしてこいつから放たれる異質なオーラの正体はおそらく瘴気だ。



 ギルからはこんなオーラは感じなかった。先生はギルからは微弱な瘴気を感じたと言っていた。



 俺が瘴気を視認できていることから察するに、多分こいつは、ギルよりも多量の瘴気を身体に含んでいるんだ。



 ギルが凄惨な罰を受けているというのも、魔大陸の瘴気を多分に含んだ影響で、ヴァルの人格が歪んだ結果だとしたら合点がいく。



「さあ、訓練所に行こうじゃないか。休憩時間はまだまだある」



「……!」



 さて、どうするか。



 決断を迫られ、教室には沈黙が訪れる。周りの生徒たちは不安な表情で俺を見ていた。みんな、ヴァルから感じる瘴気に恐怖しているのだ。



、だが、



「お言葉ですけど」



 その沈黙は1人の少女によって破られた。



「私たちまだ学園の土地に慣れていないので、これから一緒に校内を回ろうって話してたんです。すいませんけど、今日は帰ってもらえませんか?」



「カレナ……?」



 沈黙を破ったのはカレナだった。隣にいるニアは、カレナに対して驚いている様子だった。



 極めて温厚な言葉遣いをしているが、カレナの発するその言葉には多量の怒気が含まれていた。普段の明るい振る舞いから一変したカレナの雰囲気は、最初にグレースと出会った時のものに近い。



「なら、俺が案内してあげようじゃないか。その方が迷わなくて済む」



「ご親切にどうも。でもあなたから感じるオーラはちょっと不気味です。それに、家ではギルくんにひどいことしてるって、さっき自分で言ってましたよね?そんな人に学園の案内は任せたくありません」



 カレナがそう言い切ったと同時に、ヴァルの眉間に皺が寄った。怒りの沸点が低いようだ。これもおそらく、魔大陸の瘴気による影響だろう。



「カレナ・クレンツアイン……!言ってくれるじゃないかァ……!食らえ―――――バーニング・ブラストォ!」



「これは……!」



 ヴァルが詠唱して生み出した炎は普通の魔法とは違った。炎は黒色に変化し、禍々しく邪悪な瘴気を纏っていて、その場にいる生徒たちを震わせた。多分、俺のエンチャントじゃ相殺できないレベルの魔法だ。



「ウォーター・シールド」



 ヴァルが衝動的に放った炎の魔法を、カレナが冷静に水魔法を詠唱して受け止めた。魔法と魔法がぶつかり合った影響で、辺りに水と瘴気を孕んだ魔力が飛び散った。



「訓練所以外の場所で魔法を使うのって、ルール違反ですよね?」



「僕不良生徒だし、先生にも目をつけられてるから気にしてないかな。まあ、今日のところは君に免じて帰ってあげるよ。先生に見つかっても面倒だしね」



 ヴァルはそう言うと、「じゃあね~」と鼻息を歌いながら教室を出ていった。カレナにキレていきなり攻撃したかと思えば、魔法を撃った後はご機嫌になって帰っていった。



 魔大陸の瘴気を多量に含み、実の弟が凄惨な罰を受けていても意に介さないような歪んだ人格。



(あいつは一体何者なんだ……?)



 ヴァルは魔大陸にしかないはずの瘴気を、どこでどうやって取り込んだのか、なぜギルの体にも瘴気が含まれていたのか。



 俺は霧散していく瘴気を眺めながら、尽きぬ疑問を頭の中に浮かべ続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る