第40話 不登校

「そういやさ、ギルって今日は来てないのか?全然見かけないから気になったんだけど」



 昼食も終え、教室に戻ってきてふと気づいたのだ。ギルの姿が見えないことに。



「ギルくんって、昨日グレンくんに負けてた子だよね?確かに今日は見かけないかも」



「私も見てない……」



 カレナもニアも見ていないということは、やはり今日は休みなのだろうか。



「やっぱり結界の外まで殴り飛ばしたのはまずかったか……?」



 ギルが休んでいるのだとしたら、その原因は俺かもしれない。心当たりしかない。



「一応、放課後に先生に聞いてみるか……」




「その必要は無いさ、グレン・ブエルガン」



 すると唐突に、教室へと1人の男が入ってきた。燃えるような赤髪はギルを思い起こさせるがギルではない。顔や身長がまるで違う。見たところ俺たちよりも年上だ。



「誰だ、あんた?俺のことを知ってるみたいだけど」



 俺は少し警戒していた。唐突に教室に入ってきた上に会話に参加してくるなんて変人以外の何者でもない。おまけに、奴からは異様なオーラを感じる。警戒しない訳がない。



「おいおい、1年生の癖に先輩に対して口の聞き方がなってないなあ?でも俺は許す。なぜなら優しいからな。俺の名前はヴァル。ヴァル・マリクスホードだ」



「マリクスホード……?ってことはあんたは……!」 



「弟がずいぶんと世話になったようだね。俺はギルのお兄ちゃんなんだよ」



 話し方も顔の作りも全然違う。共通しているのは燃えるような赤い髪だけ。



 教室にやってきた変人は、ギルの兄貴だった。



「で、ギルはなんで休みなんだよ?兄貴ならなんか知ってるんだろ?」



 ヴァルは深く頷きながらこちらに歩み寄ってくる。ヴァルの体から溢れる異質なオーラは距離が縮まるほど不気味さを増していった。



「ああ、もちろん。ギルは今、マリクスホード家にある懲罰房で凄惨な罰を受けているよ」



「罰?なんでそんなことを」



「君に負けてしまったからね。君のことは学園全体で噂になっているんだ。入学試験で敗北したにも関わらず、騎士団候補生として1年A組にいる出来損ないだってね」



「なに?」



 あまりにも不名誉な噂が広がっているものだ。だが、入学してから自分の魔法関連の能力が高くないことは理解している。だからもう、怒る気にはなれなかった。



「そして、そんな出来損ないの君に負けたギルって、さらに出来損ないってことだろ?そんなやつが、罰も受けずにマリクスホードの家名を背負っているのが許せないのさ」



 飄々としたしゃべり方とは裏腹に、ヴァルの顔は怒りで満ちていた。正直、なんで家族でここまで険悪な関係でいられるのか分からない。だが、ギルが休んでいる理由は大体分かった。



「それで、なんであんたはここに来たんだよ」



「決まっているだろう?試すのさ、ギルが負けた男がどれだけ強いのかをね。噂と違って強いなんてことがあったら、ギルに謝らなくちゃいけない」



「つまりそれって……」



「グレン・ブエルガン、俺と戦おうじゃないか」

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