第38話 続かない集中
(まずい……)
突然だが、俺は今猛烈にピンチだ。
(眠気が、眠気がすごい……!)
学園生活2日目にして、授業中に睡魔と戦っていた。1時間目から3時間目の授業まではまだ大丈夫だったんだ。初めて授業を受けるという緊張感を持っていたからか、自然と今のように眠気が襲ってくることは無かったのだ。
現在4時間目。昨日たっぷり寝たはずだというのに、なぜ意識を途切れさせないため自分の腕をつまんでいるのだろうか。
1~4時間目までの授業の担当は全てトリルエル先生だ。先生の話がつまらないから眠いというわけではない。今日の授業で解説されている内容は、既にミネンから教わったことのある知識ばかりなのだ。
つまり、既に知識として頭に覚えていることを延々と聞かせられているわけだ。
ん?それって話がつまらないってことでは?ダメだ、どんどん頭が働かなくなってきた。
ただでさえ長時間人の話を聞くという行為に慣れていないというのに、その話の内容が既に知っているものなのだから眠くならない訳がない。
逆に、3時間目までは起きていられたのだから逆に誉めてほしいくらいである。
「すー……」
ふと気がつくと、手前の席から静かな寝息が聞こえた。その声は籠っていたので、声の主が誰なのかは見なくても分かった。
(カザガネお前寝てんじゃねえよ……!)
人が折角耐えているというのに、前の席にいるこいつは呑気に眠っていやがる。
しかも仮面を被っていて寝ているかどうかの判別がしづらいのでタチが悪い。これは先生も気づかないだろう。
(隣にいるカレナはちゃんと起きてるって言うのに……)
呑気に寝ているカザガネの隣では、カレナが綺麗な姿勢でピタリとも動かずで授業を受けていた。カレナも騎士団候補生なので今日の授業の内容は大方理解しているだろうに、起きててえらい。
ならグレースはどうだろうか。ここまで授業を受けてきてグレースの方を向いていなかったので少しだけ気になった。おそらくグレースもカレナのように真面目に授業を受けているのだろう。
そう思ってグレースの方を向いた俺の目には、衝撃の光景が映った。
なんと視線の先には、教科書の内側に小説を挟み読書に励んでいるグレースの姿があるではないか。
(もしかして騎士団候補生って不良生徒の集まりなのか?)
1人は集中力が切れて睡魔と戦っているもの、もう1人は睡魔に負けたもの、最後の1人は睡魔以前の問題である。まともなのはカレナだけ。
騎士団候補生は、騎士団員の指導を受けて魔法技術を培う代わりに魔法学校には基本的に通っていない。
故に、授業慣れしている人間が少ないのでこういった状況に陥ってしまうわけだ。
(せめて俺は、カレナみたいに真面目に受けないと……!)
まともに授業を受けていないクラスの成績優秀者たちを尻目に、俺はそう誓った。
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