第35話 あの件

「なんか、濃い1日だったな……」



 風呂から出てすぐ、俺は自室のベッドに飛び込んだ。ふかふかのベッドに疲労感と共に体が沈んでいく。こんな感覚に陥ったのは久しぶりだ。



 ここまで疲労を感じたのはいつぶりだろうか。レイナとヴェイドさんがこの家に居たとき以来だろうか。あれも2年ほど前になるわけだし、時が経つのは早い。



「明日も頑張らないとな」



 今日はあまり結果を出せなかった。明日からは本格的な授業も始まるようだし、今日のような調子では他生徒との差は開いていくばかりだ。



 トリルエル先生はギルとの戦闘を評価しておくと言ってくれたが、それがどれだけ成績に影響するのかは不明だ。



 過度に期待はできない。



 俺はそう心に止めて眠りについた。



 ※ ※ ※



 翌朝、目を覚ましてリビングへ足を運ぶと、既に身支度を終えたミネンがいた。



「あれ?なんでミネン準備してるの?昨日夜勤だったよね?」



 昨日の夕方から今朝にかけて、ミネンは夜勤だったはずだが、なぜか俺より早く起きて身支度を済ませている。



 夜勤を終えた直後にこれとは、騎士団に所属するのも大変である。



 まあミネンは、日中は俺の面倒をつきっきりで見てくれて、俺が寝ついたら夜勤に行くみたいな人間離れした生活をしていたのでこれっぽっちも心配はしてないのだが。



「早番というか、ちょっとした用事です」



「用事って?」



「今日から毎朝、グレースに稽古をつけに行くんですよ。試験の時に約束してたでしょう?もしかして忘れたんですか?」



「あー!すっかり忘れてた!てか今日から!?」


 


「試験当日、あなたが負けたショックで正気を失っていたときにグレースと日程を決めていたので」



 俺の知らない間に色々話が進んでいたようだった。



 試験の時は焦ったけど、よくよく考えたらこれから学園生活なわけだし、その分ミネンに指導してもらえる機会は目に見えて少なくなるのだから、そんなに焦ることでもなかった。



「でもなんかごめん……俺のせいで」



「別に気にしていません。私もグレースとは話す機会が欲しいと思ってましたから。そもそもこれは、私が提案したことですよ?」



 それもそうだが、気になるものは気にしてしまうのだ。



 まあ、ミネンが大丈夫と言うのならそれでいいということで、この話は終わりにしよう。



「それじゃ、行ってくるので。グレンも遅刻しないようにお願いしますよ。あ、そういえばグレンに聞いていませんでした」



「ん?」



 扉を開きかけたミネンは、俺の方に振り返った。



「学園生活、上手くやっていけそうですか?」



「うん!」



 俺はミネンの問いに、力強く頷いた。成績だったり瘴気だったりで不安なことはもちろんある。でも、何人か友達も出来たし、学園に対してそこまで悪感情もあるわけじゃない。



「どうやら大丈夫そうですね。では」



「いってらっしゃい」



 俺の問いに満足したような顔をして、ミネンは家を出て行った。


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