第34話 魔大陸の瘴気
「これ、あなたに見えるかしら?」
そう言うと、先生はローブの中から、何も入ってない小柄なビンを取り出した。
「?ビンがどうかしましたか?」
説教されるのかとでも思っていたので、ビンを出されて「これが分かるか」と聞かれてもよく分からない。
「……正確に言うと、このビンの中に入っているものなんだけど、どうやら見えてなさそうね」
「え?そのビン、何か入ってるんですか?」
「このビンの中には、魔大陸の魔力―――――瘴気が入っているわ」
「!」
瘴気。
それは、王都から離れた場所にある魔大陸という、魔族たちの住む大陸に漂っている魔力だ。
王都の魔力とは違って、魔大陸の魔力である瘴気は魔力の濃度が非常に高く、普通の人間が体内に取り込めば、人格や身体能力に大きな影響を及ぼす。
俺には見えないので、ビンの中に本当に瘴気が入っているかは分からないのだが。
「それで、どうしてそれを俺に?」
「君の戦ったギルくんからは、本当に微弱だけど瘴気の気配を感じたのよ。それで、直接戦ったあなたに話を聞こうと思ってね」
「ギルから瘴気が……」
瘴気は本来、ヴァルサレン王国には発生しないはずのものなのだ。それを王学の一般生徒が体に取り込んでいるとなれば大騒ぎになる。
にわかに信じがたい話だが、もし本当にギルの体に瘴気が取り込まれているのだとしたら、あの横暴な性格にも合点が行く。
「本当に些細なことでもいいの。彼と戦って、何か違和感を感じたりしなかった?」
「違和感……」
違和感と言われて、1つだけ思い当たる節があった。
「そういえばギルの態度が、戦う前と後で変わったなって思いました。気のせいかもしれませんけど」
「本当?だとすると、学園長は既に対策を立てて……」
先生はぶつぶつ何かを言った後、急に席を立った。
「うん、参考になったわ。居残りさせちゃってごめんなさいね?今日の模擬戦、良かったからグレンくんの成績に反映させておくわ」
「え?あ、はい……ありがとうございます?」
なんか急に話が終わってこれから帰る感じの流れになってるが、俺の頭の中で色々整理できていない。この先生、仕事は早いけど雑な時はとことん雑だ。
「やば!もう会議の時間!ドラウ先生に怒られる~!」
先生は時計を見ると、足早に教室を出ていった。
「なんか、思ったよりおっちょこちょいだな……」
最初試験で出会った時はものすごい人というか、デキる人という印象があったのに、今になっては先生にその印象を当てはめられない。
「帰るか……」
こうして、色々な事が起こった学園生活の1日目は終了した。
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