第32話 圧倒

「なあギル、次は俺と勝負しようぜ?」



 早速、他の生徒の試合を眺めていたギルに声をかけた。ギルはこちらへ振り向くと同時に、俺を嘲笑うかのように語った。



「悪いが、俺は弱い奴に興味ないんだ。くじ引きで余ったんなら余ったやつらしくしてろよ」



 ギルのニヤけ面と煽りに慣れてしまった自分がいるのが恥ずかしい。こいつには、今まで散々馬鹿にされてきた借りがある。



 そしてそれ以上に、ニアを泣かせたこいつが許せなかった。



「なんだよ、俺に負けるのが怖いのか?」



 だから俺も、少々挑発的に行くことにした。今まで自分が他人に向けてきた言葉の数々が、どれだけ相手の心を痛め、傷つけてきたのかを、こいつに教えてやる。



「……騎士団候補生もどきも、ここまできたら哀れだな。いいぜ?その勝負受けてやるよ」



 挑発されてイラついたのか、こちらに殺気を込めた鋭い視線を送ってくる。



「よし、じゃあ行こうぜ」



 そう言って、ギルと俺はニアのいる場所まで向かった。



 ※ ※ ※



 先ほどニアとギルの勝負で破壊されたはずの結界は、既に修復されていた。学園長の魔術と聞いていたが、自動で元に戻るようになっているのか。



「よし、そんじゃさっさと始めるか!他のみんなもどんどん終わってるみたいだしな」



「剣は使わないのか?エンチャント以外、まともに魔法も使えないんだろう?」



 ギルはなにやら、俺が何も持たずに模擬戦を始めようとしていることに違和感を覚えたらしく、そんな質問をしてきた。確かに俺は剣を持ってないし、魔剣を使う予定もない。



「よくそんなこと覚えてたな。でもまあ大丈夫。お前相手なら剣があってもなくても大差ないだろ」



「……どういうことだ?」



「お前なんか剣が無くても勝てるって言ってんだよ」



 目には目を。挑発には挑発で返す。



「……絶対潰す!」



 そうギルは言い放つと、炎魔法の詠唱を始めた。そういえば先生に勝負すること言ってなかったけど、まあいい。



「さあ、勝負だ」



 ニアも近くで見ている。



 決して負けられない戦いの火蓋が、切って落とされた。



 ※ ※ ※



「バーニング・バレット!」



 詠唱によって生み出された炎の弾丸たちは、俺の方へ容赦なく放たれた。数は2桁にも満たないほどだが、一つ一つのスピードが早く、コントロールもいい。このまま行けば5秒以内に俺は負ける。



「……見切った」



 だが、その弾丸のどれもがグレースのものよりも数段劣って見える。グレースの使ったアイシクル・バレットは20発ほどだったのに対して、ギルのは8発で、スピードもコントロールもグレースの方が圧倒的に上だった。



 故に。



「そんなヒョロい弾丸じゃ当たらないぞ!」



 俺はその全ての弾丸を見切って避けた。剣があればそれで弾くが、今回はその必要すらない。



「クソ!バラけて撃ったのになんで当たらねえんだ!」



「言っただろ!ヒョロいんだよお前の弾は!」



 迫り来る弾丸を避けながら、確実に一歩、また一歩とギルとの距離を詰めていく。



「おいおい、まさかその魔法が全力じゃないよな?人のこと弱いとかほざいてた奴の全力がこのレベルか?」



 全ての弾丸を避け切った俺は、ギルが次の詠唱を始める前に叩こうとゼロ距離まで詰めた。



「勝機!」



 ギルの位置を完璧に捉えた俺は、ギルの首を掴んですかさず横腹に蹴りを打ち込んだ。



「グハッ!」



 この結界内では、体に痛みを感じることはない。なので、俺は容赦なく、何度も蹴りを打ち込む。



「これで終わりだ!――――エンチャント・ブレイズ」



 首から手を離して詠唱にすると、俺の足が炎に包まれた。ギルは俺の蹴りで怯んで膝をついた。反撃の目はもうない。その隙をついて、俺は頭に向かって全力の回し蹴りを入れた。



「ぶぐぁっ!」



 ギルは情けない声をあげながら、蹴りの威力に耐えられず、結界の外までぶっ飛んだ。それと同時に結界は解除され、勝負は終わった。

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